2025年9月13日土曜日

『Race and Racism』全体の内容

 本書は、人種を生物学的に優劣づける考えを否定し、人類を遺伝的差異ではなく文化的多様性で理解すべきだと論じる。序章は「人種の神話」を概観し、人種主義が科学を装いながら政治的目的に奉仕してきた過程を追う。第1部では骨格・皮膚色・血液型などの形質に優劣を読み込む計量人類学を批判し、ナチスのアーリア主義と米国のジム・クロウ法を並置して実証的根拠の欠如を示す。第2部は、パプアやネイティブ・アメリカン、日本社会など多彩な民族誌例を用い、言語・宗教・家族制度が行動規範を形成することを示し、環境と文化が遺伝子より大きく行動を左右すると論証。第3部では、差別の持続を支える経済利害と教育不足を分析し、メディアと学校教育による批評精神の育成を提案する。終章は、差別は普遍化された「信念体系」であり、歴史的産物として変革可能だと結論づけ、人類共通の価値としての民主主義と相互尊重を呼びかける。さらに、戦時下の連帯を阻む偏見の克服こそ平和の前提であると強調し、読者に行動変革を促す。公正な世界実現には科学的識見と文化相対主義が不可欠だと訴える集大成的論考。平易な語り口で実例と統計を示し一般読者にも理解しやすい。