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2025年9月21日日曜日

(銀河ヒッチハイク・ガイド)

 

ステップ読むべき巻おすすめ理由
STEP 1第1巻
The Hitchhiker's Guide to the Galaxy
(銀河ヒッチハイク・ガイド)
映画の基礎になった部分がそのまま詳しく描かれており、ボゴン人、ハート・オブ・ゴールド号、不確実性ドライブ、42などがより深く理解できる。映画で描かれなかった皮肉やギャグも豊富。
STEP 2第2巻
The Restaurant at the End of the Universe
(宇宙の果てのレストラン)
映画でわずかに触れられた「宇宙の果てのレストラン」が本格的に登場。ゼイフォードの過去や、マグラシア星のさらに込み入った背景が明かされる。映画では省略された大ネタ多数。
STEP 3第4巻
So Long, and Thanks for All the Fish
(さようなら、そしてありがとう…)
映画オリジナルだった「アーサーとトリリアンの関係」にやや近い雰囲気が出る。地球が復活したあとの話で、ラブストーリー要素も出てくる。映画の余韻で読むには相性が良い。
STEP 4(興味があれば)第3巻
Life, the Universe and Everything
(宇宙クリケット大戦争)
映画には全く出てこないが、シリーズ中でもっとも奇想天外なSF冒険編。映画をきっかけに「原作はこんなにヘンだったのか」と楽しめる。
STEP 5(マニア向け)第5巻
Mostly Harmless
(ほとんど無害)
原作シリーズの終幕。かなりブラックで救いがないので、映画のノリとは別物。ただし「ヒッチハイク世界観の果て」を知りたくなる人にはおすすめ。

『投影された宇宙』は、1991年にマイケル・タルボットが著した一冊である。

 『投影された宇宙』は、1991年にマイケル・タルボットが著した一冊である。著者は本書において、当時最先端の量子物理学と脳科学、そしてスピリチュアリティを縦横に行き来しながら、世界の根源的構造が「ホログラム」である可能性を探求する。つまり、宇宙とは、物質的な実体ではなく、干渉パターンの中から浮かび上がる情報の再構成であり、現実は心と密接に関わる投影現象であるというのが、彼の提示する壮大な仮説である。

物語は、量子物理学者デヴィッド・ボームの「暗在秩序」の理論から始まる。彼によれば、我々の見ている世界は「顕在秩序」、すなわち可視的・測定可能な現象であり、その背後には、全てのものが非局所的に繋がった目に見えぬ「暗在秩序」が存在するという。ボームにとって、電子同士の相関や量子エンタングルメントは、個々の粒子ではなく、全体が一つのホログラフィックな統一体として振る舞っている証左だった。タルボットはこの視座を、単なる物理理論の枠にとどめず、意識や超常現象にまで拡張する。

そこに登場するもう一人のキーパーソンが、神経科学者カール・プリブラムである。彼は、脳が記憶を保存するメカニズムを探る中で、局所的な損傷では記憶が失われないという奇妙な現象に着目した。たとえば脳のある部分を切除しても、被験者の記憶全体が損なわれるわけではない。この事実は、脳が情報を局所的にではなく全体的に処理している、すなわちホログラムのような構造で情報を格納しているという仮説に彼を導いた。タルボットはボームの宇宙モデルとプリブラムの脳モデルを統合し、「宇宙そのものが巨大なホログラムであり、私たちの脳もまたそれをホログラフィックに解釈している」というビジョンを描き出す。

タルボットはこの枠組みを用いて、従来は「非科学的」とされてきた現象にも理論的な裏付けを与えようとする。テレパシー、予知夢、臨死体験、心霊現象、そして量子場との非局所的な相互作用。こうした現象は、もし宇宙がホログラフィックに構成されているなら、非物質的な要素、すなわち情報や波動が現実を形成する力として十分に存在しうると示唆される。たとえば、遠く離れた親子が同じ瞬間に同じ夢を見る、死にかけた患者が手術中に部屋全体を俯瞰する、というような逸話を、彼は単なる幻想ではなく、宇宙のホログラム性を示す断片として拾い上げてゆく。

また、スタニスラフ・グロフが提唱する変性意識状態、ジョン・C・リリーの感覚遮断タンク実験、そしてカール・ユングのシンクロニシティ(共時性)の理論なども紹介される。グロフは、LSDや呼吸法によって通常の意識状態を越えた体験を報告し、そこには自己と宇宙の一体化や、時間を超越する認識が含まれるという。これらは、ホログラム的な宇宙においては単なる幻覚ではなく、通常の五感では捉えきれない領域と接続した「拡張現実」として再解釈されうる。リリーの研究もまた、自己という存在が脳内に閉じ込められているのではなく、広大な情報フィールドの一部として存在することを示唆する。

そして、そうした概念の集積は、単なる知的興味ではなく、現実に対する理解の根底を揺るがす衝撃を読者にもたらす。もしこの世界が情報の干渉によって生まれたホログラムであるとしたら、私たちが日常的に信じている「物質的な現実」は、意識という投影装置が生み出した幻像に過ぎないかもしれない。そして、夢や幻想、直感や予感は、脳の誤作動などではなく、むしろ根源的な宇宙の「本来の姿」に近づく通路なのではないかとすら思えてくる。

『投影された宇宙』は、科学と精神世界の橋を渡しながら、現実そのものの輪郭を問い直す旅へと読者を誘う。登場する科学者たちは、必ずしもすべてが同じ立場を取っているわけではない。むしろ彼らの研究は、部分的でありながらも現代科学が見落としてきた断片を照らす役割を果たしている。タルボットの叙述は、彼らの成果を巧みに繋ぎ合わせ、まだ名づけられていない全体像の予感を読者に抱かせる。

それは、物質から情報へ、外的観察から内的直観へ、そして分離から全体性へと向かう、一種の知的転回でもある。そしてこの書は、その過程の最前線を描き出した、きわめて先見的なマニフェストである。


シミュレーション仮説

 現代における思考実験は、哲学・科学・SFの境界を越えて、「私たちの現実とは何か?」という問いを多角的に掘り下げる道具となっている。中でも最も刺激的で影響力のあるものの一つが、スウェーデンの哲学者ニック・ボストロムが2003年に提唱したシミュレーション仮説である。これは、高度な文明が十分に進化すると、過去の人類の意識や歴史を完全に再現できるシミュレーションを構築できると仮定し、その上で「もしそうした文明が存在し、それを複数回実行しているならば、我々がその中の一つにいる可能性は非常に高い」という逆転的推論を展開する。この仮説は単なる哲学的ジョークではなく、現実が計算可能な情報構造によって構成されている可能性を提起するものであり、計算理論・量子物理学・人工知能など多くの分野に波及している。

この仮説をめぐるもう一つの注目点は、情報と意識の関係性である。ジョン・サールの「中国語の部屋」思考実験は、コンピュータが意味を「理解」することなく正しい出力を行える状況を描くことで、「情報処理」と「意味理解」の間に決定的な隔たりがあることを示唆する。この議論は、シミュレーション仮説が前提とする「意識の再現可能性」に対する根本的懐疑とつながっている。もし人間の意識が単なる演算の産物ではなく、現実世界に特有の物質的基盤や主観的体験(クオリア)を伴うものであるならば、我々の現実が“ただの”情報処理であるとは言えなくなる。

こうした問いを、哲学だけでなく、現代のフィクション作品は独自の形で表現している。テッド・チャンの短編『あなたの人生の物語』では、異星人の非線形言語を習得することで、人間の時間認識が変化し、未来の出来事が現在と同等に認識されるようになる。これは「観測と言語によって“現実の構造”そのものが変わる」というIUT理論的な洞察と呼応する。またアニメ作品『STEINS;GATE』は、時間の分岐と収束という世界線理論を通じて、個人の選択が果たして“自由”であるのか、それともすでにシミュレートされた経路上に乗っているだけなのか、という実存的な問いを突きつける。

他にも『serial experiments lain』では、ネットワークと現実が融合し、情報の階層構造が現実の重力すら変えていく。これはホログラフィック原理が示す「2次元情報が3次元現象を生み出す」構造と一致しており、現実が階層的・投影的に構築されていることへの直感的理解を促す。一方、数学的世界観からのアプローチとしては、abc予想や望月新一によるIUT理論が示すように、数の背後にはまだ解明されていない巨大な構造が広がっており、それ自体が“宇宙のプログラム”であるかのような側面を帯びている。数学がただの記号遊びではなく、宇宙の深部を記述するための言語であるとすれば、それはまさに、現実がコードで書かれているというシミュレーション的世界観を補強する。

現代の思考実験の価値は、それが「非現実的だから」と切り捨てられるものではなく、“現実をどう定義するか”という問いの形式そのものを問い直すことにある。シミュレーション仮説、ホログラム理論、数理宇宙論、人工知能論――これらを結びつけることは、現代思想における最も包括的かつ挑戦的な営みであり、哲学と科学、創作と現実の境界を越えて、私たち自身の存在の根底に揺さぶりをかけている。


2025年9月14日日曜日

日本・米国におけるスペースデブリ除去スタートアップの準備と資金調達

 

1. 初期資金と調達手段

スペースデブリ除去は高コストの事業のため、初期段階から数億~数十億円(数百万~数千万ドル)規模の資金が必要となる。実際の事例では、米国のスタートアップStarfish Spaceがシードラウンドで約770万ドルを調達sorabatake.jp、日本発のAstroscaleはシリーズFで約1億ドル(総調達額3億ドル超)を獲得しているukspace.org。また、米国のKMIは国防省SBIR契約と民間投資合わせて約500万ドルを集めた例があるpayloadspace.com
主な調達手段にはベンチャーキャピタル投資国や政府機関の助成金(SBIR/STTRなど)公的研究開発支援などがある。日本政府は2023年に宇宙分野のスタートアップ16社にSBIR型補助金で総額387.6億円を投じ、うちAstroscaleには最大26.9億円、Pale Blueには15.8億円が交付されたbusinessinsider.jpbusinessinsider.jp。米国でもNASAや空軍系(SpaceWERX)によるSBIR/STTR、DARPA契約などで数千万~数億円規模の資金が供給されており、NASAはStarfish Spaceに対し3年で1500万ドルのSBIRフェーズIII契約を付与しているnasa.gov。これら助成金や政府契約は資金調達の重要な柱となっている。

2. 関連法規制・ライセンス

日本では、2016年成立の宇宙活動法により「打上げの許可」と「衛星管理の許可」が必要とされるgvalaw.jp。これら許可要件には、スペースデブリ低減策が盛り込まれており、具体的には「意図しない物体放出の防止」「異常時の破砕防止」「他衛星との衝突回避」「運用終了後の除去措置」などが含まれるwww8.cao.go.jpwww8.cao.go.jp。実際、ロケット打上げ許可では上段ロケットの除去・デブリ抑制が審査基準となり、衛星運用許可でも不要デブリ放出禁止や寿命終了後の回収計画等が審査されるwww8.cao.go.jpwww8.cao.go.jp。さらに、通信設備を搭載する場合は総務省による周波数利用許可も必要となる。

米国では、ロケット打上げにはFAA(商業打上げ承認制度)のライセンスが必要で、その審査には衝突回避措置や上段処理計画が含まれる(FAAの新規則検討中)。さらに、衛星から地上との通信にはFCCの通信許可が必要で、FCC規則ではミッション終了後は可能な限り速やかに(かつ5年以内)衛星をデオービットすることが義務付けられているwww8.cao.go.jp。また、地球観測センサを搭載する場合はNOAA(商務省)のリモセン許可、船体部品の輸出入にはITAR/CTPAT対策も必要となる。以上のように、日米ともに宇宙条約やCOPUOSガイドラインの趣旨を国内法に反映し、スペースデブリ対策を含む許認可制度が整備されているwww8.cao.go.jpwww8.cao.go.jp

3. 技術準備と技術パートナー候補

https://www.nasa.gov/image-article/small-satellite-demonstrates-possible-solution-space-junk/

スペースデブリ除去にはデブリ検出・測位(3DカメラやLiDARなど)ランデブおよび捕獲機構(ネット展開、ロボットアーム、ハープーンなど)、**安全な軌道変更(電気推進等)**など多様な技術が必要である。例えばNASAはISSから小型衛星「NanoRacks-Remove Debris」を放出し、ネットで模擬デブリを捕獲する実証を行っているnasa.gov。日本ではJAXAが主導するCRD2(商用デブリ除去実証)でAstroscale(ランデブ・姿勢制御技術)やPale Blue(クリーン推進技術)と連携し、ADRAS-J衛星による実証を行っているbusinessinsider.jp。レーザー除去技術では、スカパーJSATと理研・JAXA・名古屋大学・九州大学の共同プロジェクトが進行中で、2026年実用化を目指しているnagoya-u.ac.jp。米国側ではNASA(複数センター)、空軍(SpaceWERX)、DARPAなどの公的機関と連携するとともに、Starfish SpaceやKMI、D-Orbit、Northrop Grumman、SAIC、MIT・UMD等の大学研究機関がデブリ除去技術の共同開発・実証に参画している。これら公民連携や産学連携により、必要な技術シーズの収集・育成が進められている。

4. インキュベーター・アクセラレータープログラム

宇宙スタートアップ向けの支援体制も整いつつある。日本ではJAXAのビジネスインキュベーションセンター(つくば・大阪)やJ-SPARCプログラム、文科省・経産省のSBIR/大学発ベンチャー支援、さらにBeyond Next VenturesやEast Venturesなど民間VCの宇宙特化ファンド/アクセラレータが活動している。大学も「宇宙ベンチャープログラム」(UTokyo IPPなど)で起業支援を行う。米国ではNASA iTechやSBIR/STTR、空軍のSpaceWERX(Orbital Prime)プログラム、DARPAコンテストなど官主導のアクセラレータに加え、Techstars Starburst(JetBlueなど大企業協力)、Seraphim Space、MassChallenge、ブルーオリジンのNASA慈善事業(BEACON)など民間アクセラレータも多彩である。例えばSpaceWERX「Orbital Prime」では2022年~2024年に175件のSBIR契約(合計約1.21億ドル)が既に企業に提供されており、技術成熟と事業化支援の両面で大きな効果を挙げているspacewerx.us

5. 実証実験から商用展開までのステップとタイムライン

一般的には、アイデア立案~事業計画策定(1~2年)基礎研究・地上試験(2~3年)デモ機開発・打上げ準備(2~3年)軌道上デモンストレーション(1~2年)商用化に向けた技術成熟・顧客獲得(さらに複数年) といったプロセスを経る。実例として、Astroscaleは2020年2月にJAXAのCRD2パートナーに選定され、2024年2月にADRAS-Jを打ち上げ、同年中に実際のロケット上段(約3トン級)へ接近・観測を達成したastroscale.comastroscale.com。創業2013年の同社は「2030年までに軌道上サービスを常態化する」目標を掲げておりukspace.org、着実に技術を成熟させている。初打上げからの検証では、ぶつからない距離(数十メートル)までの接近・測定→最終接近(数十センチ)→確実な捕獲・除去へと段階を踏む。一般に、最初のデモに5~10年、商業運用まで10~15年以上かかると見込まれており、大手企業や政府との協業・契約(JAXA CRD2、NASA契約等)が鍵となる。以上のように、資金調達・法規制・技術開発・パートナー連携・実証実験といった複数要素を同時並行で進める必要がある。

参考資料: Business Insider Japanbusinessinsider.jpbusinessinsider.jp、NASA記事nasa.govnasa.gov、Astroscale発表資料astroscale.comastroscale.com、TMI総合法律事務所報告www8.cao.go.jpwww8.cao.go.jpなど。これら出典に基づき、日米両国の宇宙デブリ除去事業の現状と課題を整理した。

2016年5月29日日曜日

『新・物理学事典』は“読む事典”|章構成の要点・使い方・関連事典との比較【BB】

新・物理学事典 (ブルーバックス)

・特殊相対論は全物理学の基盤を与えるものとなっている。ただ、重力のみがそれに収まらない、そこで、慣性系の制限をはずし、等価原理をおくことによって、一般相対論すなわち重力の理論が作られ、宇宙論の進展とともに現在華々しく活躍中である。(坂間勇)Q1. “読む事典”って何が違う?

A. 章が独立しており、索引も充実。“読み通し”と“引き参照”の両刀で使えます。講談社「おもしろくて、ためになる」を世界へ

Q2. 独学でも読めますか?
A. 力学・電磁気・量子の基礎があると快適。要点拾い読み→必要箇所を深掘りする使い方が◯。

Q3. どこで買える?
A. 公式・紀伊國屋・Books.or.jp・Amazonの各ページを掲載しておきます。講談社「おもしろくて、ためになる」を世界へKinokuniyabooks.or.jpAmazon Japan