2025年9月14日日曜日

日本・米国におけるスペースデブリ除去スタートアップの準備と資金調達

 

1. 初期資金と調達手段

スペースデブリ除去は高コストの事業のため、初期段階から数億~数十億円(数百万~数千万ドル)規模の資金が必要となる。実際の事例では、米国のスタートアップStarfish Spaceがシードラウンドで約770万ドルを調達sorabatake.jp、日本発のAstroscaleはシリーズFで約1億ドル(総調達額3億ドル超)を獲得しているukspace.org。また、米国のKMIは国防省SBIR契約と民間投資合わせて約500万ドルを集めた例があるpayloadspace.com
主な調達手段にはベンチャーキャピタル投資国や政府機関の助成金(SBIR/STTRなど)公的研究開発支援などがある。日本政府は2023年に宇宙分野のスタートアップ16社にSBIR型補助金で総額387.6億円を投じ、うちAstroscaleには最大26.9億円、Pale Blueには15.8億円が交付されたbusinessinsider.jpbusinessinsider.jp。米国でもNASAや空軍系(SpaceWERX)によるSBIR/STTR、DARPA契約などで数千万~数億円規模の資金が供給されており、NASAはStarfish Spaceに対し3年で1500万ドルのSBIRフェーズIII契約を付与しているnasa.gov。これら助成金や政府契約は資金調達の重要な柱となっている。

2. 関連法規制・ライセンス

日本では、2016年成立の宇宙活動法により「打上げの許可」と「衛星管理の許可」が必要とされるgvalaw.jp。これら許可要件には、スペースデブリ低減策が盛り込まれており、具体的には「意図しない物体放出の防止」「異常時の破砕防止」「他衛星との衝突回避」「運用終了後の除去措置」などが含まれるwww8.cao.go.jpwww8.cao.go.jp。実際、ロケット打上げ許可では上段ロケットの除去・デブリ抑制が審査基準となり、衛星運用許可でも不要デブリ放出禁止や寿命終了後の回収計画等が審査されるwww8.cao.go.jpwww8.cao.go.jp。さらに、通信設備を搭載する場合は総務省による周波数利用許可も必要となる。

米国では、ロケット打上げにはFAA(商業打上げ承認制度)のライセンスが必要で、その審査には衝突回避措置や上段処理計画が含まれる(FAAの新規則検討中)。さらに、衛星から地上との通信にはFCCの通信許可が必要で、FCC規則ではミッション終了後は可能な限り速やかに(かつ5年以内)衛星をデオービットすることが義務付けられているwww8.cao.go.jp。また、地球観測センサを搭載する場合はNOAA(商務省)のリモセン許可、船体部品の輸出入にはITAR/CTPAT対策も必要となる。以上のように、日米ともに宇宙条約やCOPUOSガイドラインの趣旨を国内法に反映し、スペースデブリ対策を含む許認可制度が整備されているwww8.cao.go.jpwww8.cao.go.jp

3. 技術準備と技術パートナー候補

https://www.nasa.gov/image-article/small-satellite-demonstrates-possible-solution-space-junk/

スペースデブリ除去にはデブリ検出・測位(3DカメラやLiDARなど)ランデブおよび捕獲機構(ネット展開、ロボットアーム、ハープーンなど)、**安全な軌道変更(電気推進等)**など多様な技術が必要である。例えばNASAはISSから小型衛星「NanoRacks-Remove Debris」を放出し、ネットで模擬デブリを捕獲する実証を行っているnasa.gov。日本ではJAXAが主導するCRD2(商用デブリ除去実証)でAstroscale(ランデブ・姿勢制御技術)やPale Blue(クリーン推進技術)と連携し、ADRAS-J衛星による実証を行っているbusinessinsider.jp。レーザー除去技術では、スカパーJSATと理研・JAXA・名古屋大学・九州大学の共同プロジェクトが進行中で、2026年実用化を目指しているnagoya-u.ac.jp。米国側ではNASA(複数センター)、空軍(SpaceWERX)、DARPAなどの公的機関と連携するとともに、Starfish SpaceやKMI、D-Orbit、Northrop Grumman、SAIC、MIT・UMD等の大学研究機関がデブリ除去技術の共同開発・実証に参画している。これら公民連携や産学連携により、必要な技術シーズの収集・育成が進められている。

4. インキュベーター・アクセラレータープログラム

宇宙スタートアップ向けの支援体制も整いつつある。日本ではJAXAのビジネスインキュベーションセンター(つくば・大阪)やJ-SPARCプログラム、文科省・経産省のSBIR/大学発ベンチャー支援、さらにBeyond Next VenturesやEast Venturesなど民間VCの宇宙特化ファンド/アクセラレータが活動している。大学も「宇宙ベンチャープログラム」(UTokyo IPPなど)で起業支援を行う。米国ではNASA iTechやSBIR/STTR、空軍のSpaceWERX(Orbital Prime)プログラム、DARPAコンテストなど官主導のアクセラレータに加え、Techstars Starburst(JetBlueなど大企業協力)、Seraphim Space、MassChallenge、ブルーオリジンのNASA慈善事業(BEACON)など民間アクセラレータも多彩である。例えばSpaceWERX「Orbital Prime」では2022年~2024年に175件のSBIR契約(合計約1.21億ドル)が既に企業に提供されており、技術成熟と事業化支援の両面で大きな効果を挙げているspacewerx.us

5. 実証実験から商用展開までのステップとタイムライン

一般的には、アイデア立案~事業計画策定(1~2年)基礎研究・地上試験(2~3年)デモ機開発・打上げ準備(2~3年)軌道上デモンストレーション(1~2年)商用化に向けた技術成熟・顧客獲得(さらに複数年) といったプロセスを経る。実例として、Astroscaleは2020年2月にJAXAのCRD2パートナーに選定され、2024年2月にADRAS-Jを打ち上げ、同年中に実際のロケット上段(約3トン級)へ接近・観測を達成したastroscale.comastroscale.com。創業2013年の同社は「2030年までに軌道上サービスを常態化する」目標を掲げておりukspace.org、着実に技術を成熟させている。初打上げからの検証では、ぶつからない距離(数十メートル)までの接近・測定→最終接近(数十センチ)→確実な捕獲・除去へと段階を踏む。一般に、最初のデモに5~10年、商業運用まで10~15年以上かかると見込まれており、大手企業や政府との協業・契約(JAXA CRD2、NASA契約等)が鍵となる。以上のように、資金調達・法規制・技術開発・パートナー連携・実証実験といった複数要素を同時並行で進める必要がある。

参考資料: Business Insider Japanbusinessinsider.jpbusinessinsider.jp、NASA記事nasa.govnasa.gov、Astroscale発表資料astroscale.comastroscale.com、TMI総合法律事務所報告www8.cao.go.jpwww8.cao.go.jpなど。これら出典に基づき、日米両国の宇宙デブリ除去事業の現状と課題を整理した。