1658(幾何光学の最古層)
フェルマーが**最小時間の原理(Fermat’s principle)**を提示。光線は光学距離が停留(極値)となる経路をとる、という幾何光学の基礎で、後の“レイ(光線)”概念を数学的に支える出発点。 Encyclopedia Britannica
1690 → 1820–1882(波動光学の柱)
ホイヘンスの原理(1690)→フレネルの干渉・回折理論(19世紀前半)→キルヒホフの回折理論(1882)で、波面伝搬=フーリエ光学の道筋が整う。ホログラム計算(回折・フーリエ変換)の数学的土台になる。 Encyclopedia BritannicaCaltechAUTHORS
1830年代(レイと“位相関数”の橋)
ハミルトンが幾何光学を特性関数/エイコナルで定式化(ハミルトン–ヤコビ理論)。“波”の位相関数の勾配が“レイ”(法線)を与えるという、波動⇄幾何の往還を数学的に確立。scholarpedia.orgTrinity College Maths
1948(ホログラフィの発明)
デニス・ガボールが“ホログラフィ”を提案(インライン型)。振幅だけでなく位相も記録・再生する発想を導入。 PubMedNature
1960–1964(実用化)
1960年:Maimanが初のレーザー発振。1962–64年:Leith & Upatnieksがオフ軸ホログラフィで実用レベルに到達(参照光を斜入射し、像成分を分離)。 Encyclopedia Britannica+1MIT OpenCourseWare
1966–1967(CGHの誕生)
Brown & Lohmann(1966)/Lohmann & Paris(1967)がコンピュータ生成ホログラム(CGH)を確立(バイナリCGH、フーリエホログラム)。ここでフーリエ光学+計算の流れが定式化される。 SpringerLinkOptica Publishing Group
1968(教科書化)
**Goodman『Introduction to Fourier Optics』**初版(1968)。以後、CGH=フーリエ変換/回折計算の標準理論となる。 Science
1978–80(CGのレイトレ確立)
Whitted(1980)が再帰的反射・屈折・影を含むレイトレーシングを確立。以降CG側で物理ベースの光線追跡が一般化し、多視点画像や材質表現を高忠実に生成できるようになる(後のホログラフィック・ステレオグラムに重要)。 cs.drexel.edu
1980年代(CG→ホログラムの架け橋・実務)
ベントンがレインボーホログラムやホログラフィック・ステレオグラムを展開。多数視点画像(多くはCGで生成、レイトレ活用)の記録という光線ベース→波面記録のワークフローが普及。 History of Information
1990年代(CGHへ“レイトレ”を直接導入)
Eldeib & Yabe(1996)がFast Ray-tracing Approachを提案し、従来比約42倍高速と報告。レイトレで遮蔽・反射・屈折など幾何光学効果を持つフォトリアリスティックCGHの流れが始まる。 ScienceDirectResearchGate
2011–2013(光線↔波面の“相互変換”で整備)
Wakunami(2011, Ray-Sampling plane):物体近傍で光線サンプリング→波面に変換し、回折伝搬でCGHを得る手法。
Wakunami(2013, Occlusion culling):光線–波面の相互変換により、レイトレや画像ベース手法を遮蔽処理に利用可能と整理。
Ichikawa ら(2013):レイトレーシング法によるフルパララックスCGHで、**隠面消去・反射・屈折・材質モデル(Phong/Cook–Torrance)**まで扱い、実写的再生を実験で提示。 Optica Publishing Group+2Optica Publishing Group+2PubMed
2020–2022(総説での位置づけ)
ACM Computing Surveys(2020)およびLight: Science & Applications(2022)の総説は、CGHを波面ベースとレイベース(レイトレ等)に大別し、レイトレCGHは最も写実的だが計算コストが高い、RTX等の現代GPU活用が有望、と整理。 ResearchGatelight-am.com
2024–2025(最新の写実表現と実装)
Watanabe ら(2024, Applied Optics):鏡面反射と連続モーションパララックスをレイトレ+ポイントベースCGHで実現。
Arai/Ono/Sakamoto(2024–25):曲面鏡反射やOptiX等での高速レイトレ実装を報告。レンダリング→波面のパイプラインが一層具体化。 Optica Publishing GroupAdsabsPubMedSPIE Digital Library
関係の要約(どう影響し合ったか)
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幾何光学(レイ)と波動光学(波面)の理論連結
フェルマー原理/ハミルトン–ヤコビ(エイコナル)により、位相勾配=光線という橋が築かれ、**“レイ情報を波面へ(あるいは逆)”**変換する今日のCGH計算の基礎ができた。 Encyclopedia Britannicascholarpedia.org -
CG側のレイトレ技術 → CGHの写実化・実用化を加速
Whitted以降のレイトレーシングが、遮蔽・反射・屈折・材質を含むフォトリアリスティックな視点画像の生成や、レイベースCGHそのものに活き、1990年代以降の高速化と2010年代の光線–波面ハイブリッドで確立。総説でも主要系譜として位置づけられている。 cs.drexel.eduScienceDirectOptica Publishing Group+1light-am.com -
ホログラフィ側の要請 → レイトレの“波動対応”へ
パララックス一貫性や鏡面・屈折の正確な深度など、波動再生に耐える形でのレンダリングが求められ、連続モーションパララックスや曲面鏡反射まで扱うレイトレ拡張が2024–25年に報告。**レイ(幾何)と回折(波動)**の設計統合がさらに前進している。 Optica Publishing GroupPubMed
さらに一歩深く(“レイトレ”は光学の古典でもある)
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20世紀前半までレイトレーシングはレンズ設計で手計算され、計算機の発達で一気に加速した――という光学史の事情も、CGのレイトレとCGHの計算が出会いやすかった背景。 Wiley Online LibraryAcademia
参考:初学者向けの全体像
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波面側の代表書:Goodman『Fourier Optics』(1968初版)で、ホログラム=回折・フーリエ変換の枠組みを把握。 Science
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レイ側の代表:Whitted(1980)で再帰レイトレ→材質・影・屈折の扱いを理解。 cs.drexel.edu
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統合の現在地:CGH総説(ACM CSUR 2020/Light: S&A 2022)でレイ系CGHの長所短所とGPU活用の潮流を俯瞰。 ResearchGatelight-am.com