2025年9月19日金曜日

誤り相関(情報同質化)の致命性—直接民主制の数理と設計

誤り相関(情報同質化)の致命性—直接民主制の数理と設計

誤り相関(情報同質化)の致命性 — 直接民主制の数理と設計

人数を増やしても「効く人数」は増えないことがある。鍵は 独立性(相関 ρ の抑制)。

#誤り相関#情報同質化#直接民主制#設計含意

直観(なぜ起こる?)

  • 同じ情報源・同じ解説・同じ SNS タイムライン → 誤りが「同じ方向」に揃う(共通モード誤差)。
  • 賛否の可視化やバズで情報カスケードが発生し、私的情報が捨てられる。
  • ネットワークのクラスター化で、群内部の誤りが強く相関し、全体の独立性が失われる。

数理(何が壊れる?)

二値投票(正答確率 p > 0.5)で票の和 S の分散は:

Var(S) = N · p(1−p) · [ 1 + (N−1)ρ ]

ここで 設計効果DEFF = 1 + (N−1)ρ

有効サンプルサイズ:Neff = N / [ 1 + (N−1)ρ ]

独立(ρ=0)なら Neff=N。相関が少しでも正(ρ>0)になると、いくら人数を増やしても「効く人数」が頭打ちに。

誤判確率(正規近似の一例)

P(誤判) ≈ Φ( ( N/2 − Np ) / √[ N·p(1−p)·(1+(N−1)ρ) ] )

例:N=1,000,000p=0.55

  • ρ=0(独立)→ 誤判はほぼ 0。
  • ρ=0.001 → 誤判 ≈ 0.07%(微小でも無視不可)。
  • ρ=0.01 → 誤判 ≈ 15.7%Neff ≈ 100
    つまり100万人が実質「100人分の多様性」しかないことが起こり得る。

結論:「もっと人を集める」よりも「ρ を下げる」ほうが桁違いに効く。

ρ を押し上げる要因

  • 同質な一次情報(同じニュースワイヤ・同じインフルエンサー)。
  • 賛否カウントやランキング等の可視シグナルによる同調圧力。
  • レコメンドの同質化(協調フィルタが似た情報を増幅)。
  • 組織的動員・ボット・メッセージの同型反復。
  • 誤訳・誤報・偏った教材など、共通の外生ショック。

設計含意(ρ を下げるレバー)

  1. 情報多元性の制度化:争点ブリーフィングを複数チャンネルで並置/対立根拠の同時提示。アルゴリズムに多様性制約を課す。
  2. 可視シグナルの抑制と順序の無作為化:事前に賛否比率を見せない/提示順をランダム化。
  3. ミニパブリックス/市民陪審:無作為抽出→小グループ討議→合議→統合。初期発話者の偏りをファシリで抑制。
  4. 層化と反事実検証:異質層の意図的混合(地域・年齢・専門)。誤った場合の損失非対称を明示。
  5. タイムラグと二段階制:速報→熟議→再投票。重大案件はスーパー・マジョリティ/二重過半(地域×総数)。
  6. 評価関数の再設計:二値に加え、信念強度や不確実性を集約。参加率の最小基準や無投票補正。

運用の実務ヒント(KPI を「人数」から「独立性」へ)

  • Neff(有効サンプルサイズ)をプラットフォーム KPI として可視化。
  • 争点ごとに 情報相関リスク評価表(主情報源数、相互参照、同時ショック可能性)。
  • レコメンドの 多様性監査(推薦分布のエントロピー、ソース集中度、意見相関の推定)。

要点:直接民主制の精度は 人数よりも 独立性に支配される。誤り相関 ρ を下げる制度設計が、合意形成を「数」から「情報の質」へ転換する鍵。