誤り相関(情報同質化)の致命性 — 直接民主制の数理と設計
人数を増やしても「効く人数」は増えないことがある。鍵は 独立性(相関 ρ の抑制)。
#誤り相関#情報同質化#直接民主制#設計含意
直観(なぜ起こる?)
- 同じ情報源・同じ解説・同じ SNS タイムライン → 誤りが「同じ方向」に揃う(共通モード誤差)。
- 賛否の可視化やバズで情報カスケードが発生し、私的情報が捨てられる。
- ネットワークのクラスター化で、群内部の誤りが強く相関し、全体の独立性が失われる。
数理(何が壊れる?)
二値投票(正答確率 p > 0.5)で票の和 S の分散は:
Var(S) = N · p(1−p) · [ 1 + (N−1)ρ ]
ここで 設計効果:DEFF = 1 + (N−1)ρ
有効サンプルサイズ:Neff = N / [ 1 + (N−1)ρ ]
独立(ρ=0)なら Neff=N。相関が少しでも正(ρ>0)になると、いくら人数を増やしても「効く人数」が頭打ちに。
誤判確率(正規近似の一例)
P(誤判) ≈ Φ( ( N/2 − Np ) / √[ N·p(1−p)·(1+(N−1)ρ) ] )
例:N=1,000,000・p=0.55
ρ=0(独立)→ 誤判はほぼ 0。ρ=0.001→ 誤判 ≈ 0.07%(微小でも無視不可)。ρ=0.01→ 誤判 ≈ 15.7%、Neff ≈ 100。
つまり100万人が実質「100人分の多様性」しかないことが起こり得る。
結論:「もっと人を集める」よりも「ρ を下げる」ほうが桁違いに効く。
ρ を押し上げる要因
- 同質な一次情報(同じニュースワイヤ・同じインフルエンサー)。
- 賛否カウントやランキング等の可視シグナルによる同調圧力。
- レコメンドの同質化(協調フィルタが似た情報を増幅)。
- 組織的動員・ボット・メッセージの同型反復。
- 誤訳・誤報・偏った教材など、共通の外生ショック。
設計含意(ρ を下げるレバー)
- 情報多元性の制度化:争点ブリーフィングを複数チャンネルで並置/対立根拠の同時提示。アルゴリズムに多様性制約を課す。
- 可視シグナルの抑制と順序の無作為化:事前に賛否比率を見せない/提示順をランダム化。
- ミニパブリックス/市民陪審:無作為抽出→小グループ討議→合議→統合。初期発話者の偏りをファシリで抑制。
- 層化と反事実検証:異質層の意図的混合(地域・年齢・専門)。誤った場合の損失非対称を明示。
- タイムラグと二段階制:速報→熟議→再投票。重大案件はスーパー・マジョリティ/二重過半(地域×総数)。
- 評価関数の再設計:二値に加え、信念強度や不確実性を集約。参加率の最小基準や無投票補正。
運用の実務ヒント(KPI を「人数」から「独立性」へ)
- Neff(有効サンプルサイズ)をプラットフォーム KPI として可視化。
- 争点ごとに 情報相関リスク評価表(主情報源数、相互参照、同時ショック可能性)。
- レコメンドの 多様性監査(推薦分布のエントロピー、ソース集中度、意見相関の推定)。