以下では、「グッターオイル(gutter oil=地溝油)」の概要と、安全なリサイクルの考え方・日本での実例を要点でまとめます。
1) そもそも「グッターオイル」とは?
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主に中国や台湾で問題化した、下水・排水溝・グリーストラップ・屠畜残渣などから回収した廃油や、過度に繰り返し加熱された使用済み油を“食用油”として不正再生したものの俗称です。健康リスク(PAHs=多環芳香族炭化水素やベンゾ[a]ピレン等の有害物質の増加)が指摘され、各国で厳しく取り締まりの対象です。PMCcfs.gov.hk
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中国では2010年前後から全国的な摘発・規制強化が進み、違法な食用転用は重罰の対象となっています。エメラルドウィキペディア
2) 「リサイクル」は“食用に戻さない”ことが大前提
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使用済み食用油(UCO)は、食用に戻さず、バイオディーゼル(BDF)や持続可能な航空燃料(SAF)、石けん・脂肪酸など非食品用途に回すのが国際的・国内的な原則です。日本農林規格(JAS)にも、廃食用油のリサイクル工程管理が定義されています。農林水産省
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EU などでは UCO 由来燃料にサプライチェーン認証(ISCC等)が用いられ、不正混入や“見せかけの廃油”を抑止するガイダンスが最新化されています。ISCC System+1starconcord.com.sg
3) 正規のリサイクル先(代表例)
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バイオディーゼル(B5等):上海では回収した廃油をB5(軽油95%+脂肪酸メチルエステル5%)として公用車に利用する取り組みが報告されています。人民日報オンライン
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SAF(持続可能な航空燃料):日本でも UCO を原料にした SAF 供給や実証が進展。ユーグレナの「サステオ」や NEDO 実証、国内回収ボックス設置などの動きがあります。NEDOユーグレナ日本航空
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石けん・飼料用油脂・脂肪酸:用途管理のもとで再生油脂を利用(JASに明記)。農林水産省
4) 日本での枠組み・実務ポイント
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指針・規格:業界団体のBDFガイドライン(最新版 2024/2020版)や環境・エネルギー政策資料に、原料受入(酸価・水分・夾雑物など)や混合比(原則B5まで)、品質確認・保管などの注意点が整理されています。日本有機資源協会+1経済産業省
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自治体・民間回収:自治体や企業が拠点回収→BDF化・SAF化する事例が多数。家庭油はPET等に入れて“回収拠点に持ち込む”のが基本です(下水へ流さない)。JAL などが全国の「すてる油」回収スポットを案内しています。農林水産省日本航空
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工程管理JAS:回収〜再生〜出荷までの工程管理やトレーサビリティを規定。食品用途への転用は想定しておらず、非食品用途での安全・品質確保が主眼です。農林水産省
5) 健康リスクと「見分け」研究(参考)
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不正再生油は加熱劣化物やPAHsなどが増えやすく、発がん性物質の懸念が公的機関からも示されています。cfs.gov.hk
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研究面では、蛍光・ラマン・近赤外分光、GC/LC-MS、機械学習を用いた“その場”鑑別の試みも報告されています。サイエンスダイレクト+1PMC