「バグ」という語は19世紀の機械工学で不調・癖を指す俗語として用いられ、エジソンの書簡にも見える。1947年、ハーバードMark IIのリレーに本物の蛾が挟まり、運用ログに貼り付けられた記録が有名になって、計算機の不具合=バグ、除去作業=デバッグという語感が一般に定着した。元来“デバッグ”は電気回路や機械での故障摘出を指し、計算機が広がるにつれ手順やツールが体系化された。
「バグ」という語は19世紀の機械工学で不調・癖を指す俗語として用いられ、エジソンの書簡にも見える。1947年、ハーバードMark IIのリレーに本物の蛾が挟まり、運用ログに貼り付けられた記録が有名になって、計算機の不具合=バグ、除去作業=デバッグという語感が一般に定着した。元来“デバッグ”は電気回路や機械での故障摘出を指し、計算機が広がるにつれ手順やツールが体系化された。
この比喩を生命へ拡張すると、ウイルスは「生命OS」に仕様外の手続きを実行させるエクスプロイトだ。免疫は監査ログとランタイム防御、抗体やT細胞はシグネチャとヒューリスティック検知、ワクチンはホットフィックス、発熱や隔離はサンドボックス/プロセス隔離に相当する。さらに、粘膜・胃酸・インターフェロンは多層防御のファイアウォール、記憶細胞は自動アップデートである。一方で、内在性レトロウイルスが胎盤形成に必須のシンシチンへと“機能転用”されたように、バグが機能へと進化的に取り込まれることもある。流行規模や致死率はHLA多型など遺伝的多様性に選択圧を与え、宿主と病原体の軍拡競争(レッドクイーン仮説)が続く。人獣共通感染症の越境はサプライチェーン侵害にも似、社会は検疫・マスク・換気といった運用対策でリスクを下げる。
ウイルス発見史の主な節目は次の通り。1892年、イワノフスキーがタバコモザイク病の“濾過性病原体”を実証。1898年、ベイエリンクが「contagium vivum fluidum」としてウイルス概念を提案。1915〜17年、Twortとd’Hérelleがバクテリオファージを発見。1935年、スタンレーがTMVを結晶化し、化学的実体を示した。1940年には電子顕微鏡でファージ粒子が初撮影され、可視化と構造解析が進んだ。その後X線結晶解析、メタゲノム解析、クライオ電顕が構造と系統の理解を加速させた。
結論:バグは機械起源で蛾事件が象徴化した。ウイルスは障害であると同時に、水平伝播や遺伝子組込みを通じて生命の設計を押し広げる共同設計者でもある。その意味で、人類史における“バグ”は排除すべき敵であると同時に、系と環境が学習するためのテストケースでもあり、完全な安定ではなく適応可能性を高める。持続的改良を促す。不断に。