数学物理における「斜交(oblique)」とは、直交(orthogonal)ではない座標系や基底を指し、相互干渉・非独立性を意味する。直交座標はユークリッド的な平坦空間を前提とするが、斜交座標では軸が傾き、計量テンソル
の非対角成分が現れる。これは、空間が曲率をもち、観測者によって時間や距離の関係が変化することを表す。すなわち、斜交は「曲がった空間」や「非慣性系」の数学的兆候であり、一般相対性理論においては重力そのものを意味する。たとえば非慣性系では時間軸と空間軸が混ざり となり、時間と空間が直交しない。量子力学でも非エルミート系では固有状態が直交せず、左右固有ベクトルが「双直交(biorthogonal)」関係をなす。これにより、非保存性や不可逆性が表現される。また、場の理論や微分幾何では、斜交座標が電磁場や重力場の結合を記述する。トーションやゲージ接続はこの非直交成分に対応する。要するに、斜交とは観測者が空間と独立でいられない状態、すなわち「観測が空間を変形する」ことの数理的形式であり、主体と世界の相互干渉を表す構造である。吉本隆明の表出理論における「指示と表出の非直交性」は、この物理的斜交と同型的である。