「トーナル」とは、音に引力関係を与える秩序のことで、クラシックではⅤ→Ⅰの進行がその中心をなす。ジョージ・ラッセルはリディアン・クロマチック・コンセプトでこの重力の中心を再定義し、CメジャーではなくCリディアンを自然なトーナル・センターとした。すべての音が完全五度で積み上がる構造を「音響的安定」と捉えたためである。コルトレーンやマイルスらはこの理論を基に、固定的な中心を持たないモード・ジャズやポスト・トーナルな音世界へ発展させた。一方、セロニアス・モンクはトーナルを破壊するのではなく、あえて歪ませ再配置することで、重力の裏側に詩的構造を見出した。彼の不協和と間は、理論ではなく感覚による重力の再構築である。