2025年10月27日月曜日

ジャズでいう「ヴォイシング」とは、同じコード名でも、どの音を選び、どの高さに並べ、どの順番で重ねるかという配置設計のことです

 ジャズでいう「ヴォイシング」とは、同じコード名でも、どの音を選び、どの高さに並べ、どの順番で重ねるかという配置設計のことです。たとえばC7と書いてあっても、ルートCと5度Gを低く置く場合と、3度E・7度Bb・9th D・13th Aだけを中域にまとめる場合ではまったく別の響きになります。ジャズでは一つの“正解フォーム”より、場面ごとの色合いとバンド内バランスが優先されるので、ヴォイシングは演奏者の個性そのものになります。特に大事なのはガイドトーンと呼ばれる3度と7度で、これらはコードの性格と進行感(どこへ解決しそうか)を一番はっきり伝えます。逆にルート音はベース担当に任せて鍵盤やギターは抜いてしまい、3度・7度とテンション(9th,11th,13thなどの色づけ音)だけを鳴らす「ルートレス・ヴォイシング」がよく使われます。これは低域を濁らせず都会的なサウンドを作ります。また、各音を狭く固めるクローズ・ヴォイシング、オクターブ以上に広げるオープン・ヴォイシング、上から2番目の音を1オクターブ下げてクリアにするドロップ2など、配置の流儀そのものもヴォイシングと呼びます。良いヴォイシングとは、(1) コード機能が聞き手に明確であること、つまり「今はG7でこれからCmaj7へ落ち着く」という行き先が耳で感じ取れること、(2) アンサンブルを濁らせないこと。特にジャズコンボではベースが低域を担当するので、ピアノやギターはむやみにルートや5度を重ねず、中低域をスッキリ保つ必要があります。(3) その曲のスタイルや空気感にふさわしい色(テンション)を持つこと。ビバップならタイトで機能的、モードやR&B寄りなら浮遊感やしなりを出す、といった具合です。(4) そしてボイスリーディング、すなわち各音が次のコードへ半音〜全音以内で自然に動くこと。滑らかな動きはプロらしい“伴奏の説得力”として聞こえます。まとめると、ヴォイシングとは単なる押さえ方ではなく、和音の中で何を喋らせ、どんな質感でバンドに置くかという、リアルタイムのハーモニーデザインそのものだと言えます。この感覚が身につくと、同じコード進行でもあなた独自の伴奏と世界観を提示できるようになります。つまりヴォイシングは、ジャズにおける声の表情そのものです。