1. Apache Sparkとは何か(前提)
Apache Sparkは、分散処理エンジンです。メモリ上でデータを扱うことで従来のHadoop系バッチ処理より高速に、大量データをバッチ処理・ストリーミング処理・機械学習・グラフ解析などに使えます。Python / SQL / Scala / Java / Rから利用できます。Amazon Web Services, Inc.
Sparkは1つのフレームワークでバッチとリアルタイム両方の処理、SQL分析(Spark SQL)、機械学習(MLlib)、グラフ解析(GraphX)までカバーする「統一エンジン」です。spark.apache.org+1
2. Sparkの主な実用パターン(ユースケース)
2.1 大規模ETL / データレイク整備
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例:S3やデータベース、ログ、IoTイベントなど大量の生データを一気に読み込み、クレンジング・結合・正規化して分析用形式(Parquetなど)に変換する「ETL(Extract / Transform / Load)」バッチ。
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特徴:Sparkは大容量バッチを一括処理するのが得意で、日次・時間毎の集計レポート生成やデータウェアハウス/レイクハウスへのロードに使われています。CData Software+1
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組織的には「データレイクの心臓」として、部門横断で使われることが多いです。CData Software
2.2 ストリーミング/リアルタイム分析
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例:クリックログ、センサー値、取引イベントなどが秒単位で流れてくるストリームをほぼリアルタイムで集計し、ダッシュボードや検知ロジックに反映。
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Spark Structured Streamingは継続的にデータを取り込み、ウィンドウ集計や異常検知を行えます。これは不正検知、レコメンドの即時更新、パーソナライズ広告などに使われています。AWS Documentation+1
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典型的にはKinesisやKafkaなどのストリームからSparkで処理→結果をS3やRedshiftに格納、という流れがよくあります。AWS Documentation+1
2.3 機械学習・レコメンド
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Spark MLlib(機械学習ライブラリ)や分散データフレームを使って、大量データで学習するクリック率予測モデルやレコメンドモデルを学習する用途があります。
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具体例として、Yelpは広告クリック率予測モデルの学習をSpark on Amazon EMRで行い、広告収益とCTR(クリック率)を改善したと報告されています。また、Washington Postは読者の行動データをSparkで解析し、レコメンドを最適化しています。Amazon Web Services, Inc.
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特徴:大量データを反復学習するワークロード(勾配降下・特徴量生成など)では、Sparkの「メモリに保持したまま繰り返し計算できる」性質が効きます。Amazon Web Services, Inc.
2.4 対話型データ探索・BI支援
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Spark SQLを使って、巨大なログテーブルやイベントテーブルに対してインタラクティブにクエリを打って可視化・調査する使い方があります。バッチではなく“調査・仮説検証”フェーズでデータアナリストがよく使います。Amazon Web Services, Inc.+1
2.5 グラフ解析・つながり分析
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SparkのGraphXなどでソーシャルグラフ、ネットワークの中心性解析、レコメンド用の関係性グラフなどを分散計算するケースがあります。これは広告のターゲティング・ユーザー類似度推定・不正取引ネットワーク検出などに応用されます。Instaclustr
3. AWSでのApache Spark関連ソリューション
Spark自体はオープンソースですが、AWSは “クラスタのセットアップやスケーリングを代わりにやる” サービスを複数用意しています。以下が主な選択肢です。
3.1 Amazon EMR(Elastic MapReduce)
用途イメージ:フル機能のビッグデータ基盤 / 自由度高いSpark実行環境
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Amazon EMRはHadoop/Spark/Hiveなどのビッグデータ系OSSをマネージドで動かすサービスです。Sparkクラスタを数クリックで用意し、S3のデータを分散処理できます。Amazon Web Services, Inc.
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Spark on EMRは機械学習(MLlibによるスケールアウト学習)、ストリーム処理、インタラクティブSQL、ETLまで幅広くカバーします。Amazon Web Services, Inc.
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Amazon SageMakerと連携して、EMR上のSparkから学習・推論ジョブをSageMakerに渡すことも可能です。これは大規模特徴量生成をSparkで行い、その後のMLライフサイクル管理をSageMaker側でやる、という分業に向いています。Amazon Web Services, Inc.
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EMR Serverless:近年は“サーバレス版EMR”が提供されており、Sparkジョブを投げるだけで自動的に必要な計算リソースが立ち上がり・スケールし・終了します。クラスタ常駐管理が不要になり、アイドルコストを抑えられる、というのが狙いです。Amazon Web Services, Inc.+2AWS Documentation+2
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ストリーミング(Spark Structured Streaming)もEMR Serverless上でスケールさせられるようになっていて、リアルタイム処理基盤としても使えます。Amazon Web Services, Inc.
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Step Functionsなどとつなげて、バッチETLパイプラインや定期集計をワークフロー化することも一般的です。Amazon Web Services, Inc.
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まとめると、EMRは「Sparkを含むビッグデータOSSスタックをほぼ素のまま使いたい」「チューニング自由度も欲しい」「でもインフラ管理は極力AWS側に任せたい」という場合の主力です。Amazon Web Services, Inc.+2AWS Documentation+2
3.2 AWS Glue
用途イメージ:サーバレスETL特化(データ整備・カタログ化)
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AWS Glueはサーバレスのデータ統合/ETLサービスで、裏側の実行エンジンとして最適化済みのApache Sparkランタイムを採用しています。GlueのSparkランタイムはオープンソース版Sparkより高速化・コスト削減のためにAWS側でチューニングされています。AWS Documentation+2Amazon Web Services, Inc.+2
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“ジョブ”単位でPySpark(またはSpark SQL変換スクリプト)を投げるだけで、Glueがインフラを自動で用意・スケール・終了します。管理するのはスクリプトとスケジュールだけです。AWS Documentation+1
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Glueにはクローラとデータカタログがあり、S3等のデータソースを自動的にスキーマ推定してメタデータ管理できます。これは組織横断の“データレイクの目録(データカタログ)”として使われます。CloudThat+1
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ストリーミングETLもサポートしており、Spark Structured StreamingベースでKinesis等のリアルタイムデータを取り込みつつクレンジング→S3/Redshiftに流し込むことができます。AWS Documentation+1
Glueは「分析用データをきれいに整備してRedshiftやデータレイクに流し込みたい」「とにかくサーバレスで、ETLパイプラインの管理コストを最小化したい」という場合に選ばれます。AWS Documentation+1
3.3 ストリーミング連携:Amazon Kinesis × Spark
用途イメージ:リアルタイムのイベント処理/監視/不正検知
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Amazon Kinesis(Data Streamsなど)は、クリックログ・IoTセンサー・アプリイベントなどを高スループットで取り込み、ほぼリアルタイムで下流に流します。AWS Documentation+1
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Spark Structured StreamingはKinesis Data Streamsのコネクタを通じて、専用スループット(Enhanced Fan-Out)で各シャードから2MB/秒レベルの読み取りが可能です。これにより、低レイテンシーでの集計・アラート・ダッシュボード更新・特徴量生成などができます。AWS Documentation+1
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この構成は「リアルタイム売上監視」「決済不正検知」「パーソナライズ広告の即時更新」のような、秒〜分単位の応答が必要なケースでよく採用されます。AWS Documentation+1
3.4 SageMaker連携(学習・推論のMLOps化)
用途イメージ:Sparkで特徴量生成 → SageMakerでモデル運用
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Spark(特にEMR上のSpark)は、巨大データから特徴量を生成・集計・前処理する部分に強い。Amazon Web Services, Inc.
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その後、Amazon SageMakerに渡して分散学習・ハイパーパラメータ最適化・モデルデプロイ(エンドポイント化)まで持っていく、という分業パターンが一般的になっています。Amazon Web Services, Inc.
4. ざっくり使い分けイメージ
| シナリオ | 向いているAWSサービス (Spark関連) | ねらい |
|---|---|---|
| データレイクのバッチETL/日次集計 | AWS Glue(サーバレスSparkランタイム) | 最小運用コストでETLを回したい |
| ストリーミングETL/リアルタイム分析 | Spark Structured Streaming + Kinesis/EMR Serverless | 数秒〜数十秒で検知・集計したい |
| ビッグデータの自由度高い分析・ML基盤 | Amazon EMR / EMR Serverless(Sparkクラスター/ジョブ) | OSSスタックをほぼそのまま使いたい |
| 特徴量生成から学習・推論まで一気通貫なMLパイプライン | EMR上のSpark + SageMaker | 大規模データで学習し、そのまま本番提供したい |
(上記はそれぞれのサービス公式ドキュメント・活用事例に基づき要約しました。InfoQ+4Amazon Web Services, Inc.+4AWS Documentation+4)
まとめ
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Apache Sparkは「大量データをまとめて変換・学習・分析」「リアルタイムで流れてくるデータを即座に処理」の両方を1つのエンジンでこなせるのが強みです。Amazon Web Services, Inc.+2spark.apache.org+2
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AWS側ではSparkをいちから自分でEC2に構築しなくても、
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Amazon EMR / EMR Serverless(ビッグデータ/ML向けの高自由度クラスタ・サーバレス実行)Amazon Web Services, Inc.+2AWS Documentation+2
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AWS Glue(サーバレスETL基盤。Glue 5.0は最適化Spark 3.5系でさらに高速化・低コスト化)Amazon Web Services, Inc.+1
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Kinesis + Spark Structured Streaming(リアルタイム処理)AWS Documentation+2AWS Documentation+2
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EMR ↔ SageMaker連携(特徴量生成から学習・デプロイまで)Amazon Web Services, Inc.
という形で目的別のマネージド選択肢が揃っています。
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