熱は温度差に押されて、高温から低温へと移動します。エントロピーは増え、やがて全体がバランスに近づきます。資本も同じように考えられます。お金は利回りの低いところから高いところへ移り、競争が産業全体の利潤率を共通の水準へと押しならします。「最大エントロピー」という考え方も有用です。一定の制約がある中で、偏りの少ない全体パターンに近づく――市場が統計的な均衡を見つけていくイメージです。
ただし、これは厳密な物理法則ではありません。実際に均されやすいのはリスク調整後の期待収益です。参入・退出コスト、制度やルール、独占力、情報の不均衡、与信の制約、技術変化や需要の移り変わりなどが、この調整を遅らせたり歪めたりします。時間スケールも異なります。熱の拡散は物理定数に従いますが、資本の流れは制度・情報・信用に依存するため、超過利潤がしばらく残ることもあります。さらに経済には厳密な「保存則」がなく、信用創造や創造的破壊が前提そのものを変えていきます。