「アンカット本」に似た出版物や販売・制作支援サービス
(国内) 「アンカット本」とは、本の小口(三方)を断ち切らずに製本したもので、読者自身がページの折を開きながら読む形式の本ですnote.com。歴史的には欧米で19世紀頃まで一般的でしたが、現代でも演出として一部に採用されています。日本では新潮文庫の一部で上部を断ち切らない「天アンカット」の装丁が知られており、あえて裁断せずギザギザのままにすることで独特の趣きを生んでいますj-town.net。ただし読者から装丁ミスと誤解されることもあり、出版社が「わざとです」と説明するエピソードもありましたj-town.net。「天アンカットの美」を提唱する夕書房のような一人出版社もあり、装丁デザインとしてアンカットを取り入れる動きがありますj-town.net。アンカット本そのものを専門に扱うサービスはありませんが、製本所に依頼すれば意図的に小口を断ち落とさない製本も可能です(オンデマンド製本でも要相談)。例えばプリントオンデマンドの製本工程で最後の3方断裁を省けば袋とじ状態になりますので、実験的に自作ZINEで取り入れるクリエイターもいます。
「読者が仕上げる」出版物としては、他にも読者自ら裁断して読む雑誌の付録(袋とじグラビア等)や、組み立てキット付き書籍(読後に工作する本)などがあります。直接的にアンカット本ではないものの、「完成させるために手を動かす」という点で共通します。近年話題になったものに、フランスのデザインユニットSuper Terrainが制作した『華氏451度』特装版があります。これはページ全体が黒く印刷され、読者が加熱する(火で炙る)ことで文字が浮かび上がる仕掛けのアートブックでした。読者が物理的作用を加えないと読めない点で極端な例ですが、本と読者のインタラクションを重視した作品です。国内でも、美術館の図録でミシン目入りのページを自分で開封しながら読む趣向のものなど、似たアイデアは散見されます。
制作支援サービスの観点では、リソグラフ印刷や手製本ワークショップが「読者(作者)が仕上げる」要素を持っています。東京のHand Saw Pressはリソグラフ印刷スタジオであり、予約すればスタッフと相談しながら自分で印刷・製本作業ができるユニークなサービスを提供していますhandsawpresstokyo.comhandsawpresstokyo.com。利用者は自分で版を刷り、製本機や断裁機などの設備もセルフサービスで使用可能(スタジオで印刷した人限定)となっておりhandsawpresstokyo.com、まさに自分の本を自分で仕上げる体験が得られます。料金は時間制(例:印刷・製本立ち会いで2,000円/時+材料費)で、複数人での利用も可能ですhandsawpresstokyo.com。大阪のレトロ印刷JAMもリソグラフ専門の印刷所で、「ズレる、かすれる」といった風合いを楽しむ印刷を掲げており、名刺から冊子まで小ロットで対応しますretroinsatsu.com。こちらではオンデマンド発注のほか工房スペースでの実験印刷も行われています。リソグラフは版ずれやインクの重なりを含めて味わいとなるため、ある意味完成形が一部読者任せ(どの色がどこまで重なるか等)なプリント手法と言えます。製本も中綴じホチキス止めから簡易無線綴じまで対応し、紙やインクを選ぶ過程も含めて利用者の創意が活かせます。さらに、東京の中野活版印刷店では活版印刷や和綴じ製本のワークショップを開催しており、自分で綴じノートや和本を作る体験ができます。これらサービスは必ずしも「未裁断の本」を扱うわけではありませんが、「利用者自身が最終工程に関わる」点で共通しています。仮製本状態で配布し、読者が各自で綴じ直すような取り組みは珍しいですが、小部数アートブックの世界ではバラ綴じ(綴じずに束のままケース入り)や綴じ糸だけ通して締めていない本など、受け手が触れて完成するような作品も存在します。
(海外) 海外でも、Risographスタジオやブックアートのコミュニティを中心に「アンカット本」的な要素がみられます。例えばロンドンやニューヨークには、RisoLabやStencilといったリソグラフ印刷工房があり、アーティストが参加して自分で製本まで行えるワークショップを提供しています。米国のThe Book Arts LeagueやSan Francisco Center for the Bookでは、手製本や製本術の講座が開かれており、製本未経験の個人が自作本を持ち込んで綴じるサポートを受けられます。こうした非営利施設はコミュニティスペースとして機能し、自分で本を完成させるスキル習得を支援するサービスと言えます。
「アンカット(未裁断)」そのものを商品コンセプトにした例としては、海外オークション等で古書の未裁断本がコレクター向けに取引されることがあります。19世紀の古い書籍でページが切り離されていないものは「uncut」として珍重され、落札者が現代になって初めてページを開く楽しみを得るというニッチな市場ですboards.straightdope.com。また、前述のSuper Terrainのアートブックのように、受け手の行為で内容が現れる本という発想も欧米のアート出版で散見されます。オランダのアーティストによる「黒く塗られた本を削り出して読む」作品や、ページに香りを染み込ませ読者が擦ると香る絵本といった実験的出版物も報告されています。販売・流通支援というより作品単位の話ですが、海外のクリエイターはKickstarterなどを活用してこうした特殊本を資金調達・販売するケースがあります。
総じて、アンカット本や読者参加型の本は大量流通こそしませんが、リソグラフ印刷所のセルフサービスhandsawpresstokyo.comや製本ワークショップなど、作り手・読み手に「本を完成させる」工程を委ねるサービスが各地に存在します。価格帯はサービス内容によりますが、リソ工房なら数千円~で利用可能、ワークショップ参加費も材料込みで数十ドル程度が一般的です。納期(所要時間)はセルフ作業の場合その場で完了する場合もあります。こうしたサービスを通じて生まれた本は、一冊一冊が参与の手によって完成されるため、まさにアンカット本の思想を受け継ぐ唯一無二の仕上がりとなるでしょう。
参考文献・情報源: 本回答では各サービス公式サイトおよび関連資料を参照していますkinkos.co.jppublish.n-pri.jpblog.lulu.comdetail.chiebukuro.yahoo.co.jpyodobashi.comhandsawpresstokyo.com等。各種サービス内容・価格は2025年現在の情報に基づきますが、詳細はリンク先や公式発表をご確認ください。