核心はとても単純で、
NVセンターは「孤立した1個のスピン」
フェライトは「無数のスピンが絡み合った群れ」
という違いです。
量子ビットは「孤立した存在」でないと成立しません。
以下、物理的な理由を段階的に説明します。
1. 量子ビットに必要な条件
量子ビットに必要なのは主にこの3つです。
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他の自由度から孤立している
-
長時間コヒーレンスが保てる
-
外から個別に操作できる
これを満たすかどうかで、材料の運命が決まります。
2. NVセンターが「許される」理由
(1) ほぼ完全に孤立したスピン
NVセンターとは:
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ダイヤモンド中の窒素原子
-
その隣の空孔
-
そこに閉じ込められた電子スピン
という人工的な単一量子系です。
重要なのは:
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周囲はダイヤモンド結晶
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ダイヤモンドはほぼスピンを持たない原子(炭素12)
つまり:
周囲が「静かな真空」に近い環境
です。
(2) 核スピン雑音が極端に少ない
炭素の主成分は:
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¹²C(核スピン0)
です。
そのため:
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磁気雑音源がほぼ存在しない
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位相が乱れにくい
結果:
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室温でもミリ秒級のコヒーレンス
(他方式の量子ビットは極低温が必要)
(3) 光で直接操作できる
NVセンターは特殊で:
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レーザーでスピン状態を初期化
-
光で状態を読み出し
-
マイクロ波で制御
が可能です。
つまり:
電極も配線もなしに量子ビットを扱える
これは工学的に非常に大きな利点です。
3. フェライトが「許されない」理由
(1) スピンが密集しすぎている
フェライトでは:
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鉄イオンのスピンが格子中にびっしり
-
強い交換相互作用で結合
つまり:
「1個のスピン」など存在せず
常に「巨大なスピンの集団」として振る舞う
量子ビットの基本条件である
孤立性が成立しません。
(2) 内部から磁気ノイズが湧く
フェライト内部には:
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多数の電子スピン
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多数の核スピン
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格子振動(フォノン)
が存在します。
これは量子ビット視点だと:
周囲が常に騒音だらけの工事現場
のような状態です。
結果:
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位相が瞬時に崩壊
-
コヒーレンス時間が極短
(3) 磁性体は「量子を平均化する装置」
フェライトの本質は:
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多数スピンの平均化
-
巨視的磁化
-
ヒステリシス
です。
これは言い換えると:
量子ゆらぎを消して
古典的な安定状態を作る材料
つまり目的が逆です。
| 材料 | 本質的役割 |
|---|---|
| NVセンター | 量子状態を守る |
| フェライト | 量子状態を平均化して消す |
4. 物理的な核心の違い(最重要)
量子材料の設計思想の違いはここにあります。
NVセンター
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スピン密度:極低
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環境自由度:極小
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相互作用:弱い
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→ 孤立量子系
フェライト
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スピン密度:極高
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環境自由度:巨大
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相互作用:強い
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→ 集団古典系
5. 一文での本質的な違い
NVセンターは「量子を守るための結晶」
フェライトは「量子を平均化して消すための結晶」
この方向性の違いが、
「許される/許されない」を決定しています。
もしコアメモリの流れで見るなら、かなり象徴的です。
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コアメモリ
→ 磁性体で量子ゆらぎを潰し、確実な0/1を作る装置 -
NVセンター量子ビット
→ 結晶で量子ゆらぎを守り、0と1の重ね合わせを保つ装置
つまり歴史的には:
同じ「磁気」を使いながら、
目的が180度反転している
という関係になっています。