2025年11月26日水曜日

知の欺瞞 アンチパターン イリガライ 式の両辺の単位や次元を確かめないまま、別の量として読み替えて解釈してしまう

アンチパターン3
式の両辺の単位・次元を見ないで、勝手に置き換えて解釈してしまう

(イリガライの E = mc² をめぐる読み替えから抽出)

1. まず物理式としての前提をはっきりさせる

有名な式 E = mc2 は、次の量の関係を表します。

  • E:エネルギー(単位 J:ジュール)
  • m:質量(単位 kg)
  • c:光の速度(単位 m/s)

左右の単位を確認すると、 kg × (m/s)2 = kg·m2/s2 = J となり、両辺の次元はそろっています。 ここで重要なのは、 E, m, c は実測に裏づけられた物理量であり、 単位と次元が一致するように選ばれているという点です。

2. c を「別の速度」に入れ替える前に確認すべきこと

もし c の代わりに別の速度 v を入れて E' = mv2 のような形を考えるなら、 次の点を確認する必要があります。

  • その式はどの理論から導かれているか(相対論か、古典力学か)
  • どの状況で近似的にでも成り立つのか(低速極限か、高速か)
  • 実際の観測値と整合するか(桁違いの値になっていないか)

単に「速度だから入れ替えられる」と考えてしまうと、 式が本来説明している現象(静止エネルギー)と、 別の現象(古典的運動エネルギー)を混同することになります。

3. メタファーや価値づけは物理式とは別レイヤーに置く

「光速 c が特権化されている」「流体の速度は軽視されてきた」といった議論は、 物理式そのものではなく、 研究テーマの選択・歴史的評価・制度の問題として扱う方が整合的です。

つまり、

  • 物理式のレイヤー:E = mc2 がどの現象をどの精度で説明するか
  • メタ・社会的レイヤー:どの分野がどのように評価されてきたか

を分けて記述し、 「式そのもの」には価値ラベルを貼らず、 「誰が何を研究してきたか」の側でジェンダーや権力を分析する方が、 型の一貫性を保てます。

4. アンチパターンとの対比

アンチパターンでは、

  • 両辺の単位・次元を確認しないまま、c を別の速度に入れ替える
  • 式が導かれた理論や前提条件に触れず、「特権化」「象徴性」を読み込む
  • 物理的説明と社会的・象徴的説明のレイヤーが混在する

その結果、 計算が指しているものと、テキストが語っているものがずれたまま接続される という状態になります。

5. 型をそろえた修正例

同じテーマを扱うとして、次のようにレイヤーを分けて書き換えることができます。

5-1. 物理レベルの記述

まず、純粋に物理としての式と計算を明示します。

  • 質量 m = 1 [kg]
  • 光速 c ≈ 3.0 × 108 [m/s]

このとき静止エネルギーは E = mc2 ≈ 9.0 × 1016 [J] となります。 ここまでは、価値判断やメタファーを入れず、 「何をどの単位で計算しているか」だけを書く段階です。

5-2. 解釈レベルを写像として書く

次に、「このエネルギーをどう意味づけるか」を、 別の写像として表します。

  • 物理量の集合: Q = { E, m, c, … }
  • ディスクール上の意味の集合: D = { 集中した潜在性, 拡散性, 静性, 動性, … }
  • 解釈写像: h : Q → D

例えば、 h(E) = 集中した潜在性h(c) = 普遍的な上限速度 のように定めれば、 「E をこう読む」「c をこう読む」という解釈は E = mc2 とは別のレイヤーで記述できます。 ここで重要なのは、 E 自体と「集中した潜在性」は等号で結ばないことです。 あくまで h を通じて対応づけるだけにとどめます。

5-3. ジェンダーや権力の分析を置く場所

「なぜ c が物理学で中心的な役割をもっているのか」を問いたいなら、 それは

  • 理論的理由(ローレンツ対称性、不変速度であること)
  • 歴史的理由(どの実験が c の重要性を示してきたか)
  • 制度的理由(どの分野に資金や名声が集まってきたか)

といった複数のレイヤーに分解できます。 そのうえで、 「制度的理由」の部分にジェンダーや権力の分析を置くようにすると、 物理式そのものの型を壊さずに、社会批判の議論を展開できます。

この修正例では、 計算(E = mc2)と解釈(h, 社会分析)のレイヤーを分離し、 それぞれに固有の型と手続きを与えることで、 「式の両辺の単位・次元を見ないで、勝手に置き換えて解釈してしまう」 というアンチパターンを避けています。

知の欺瞞 アンチパターン 集合や命題と 0/1 の混同

型をそろえた書き換え(パターン2:集合や命題と 0/1 の混同)

1. まず型をはっきり分ける

「命題そのもの」「真偽の値」「0/1 実数」「あいまいな程度」を混ぜないように、 それぞれ別の集合として定義します。

  • 命題の集合: P = { p, q, r, ... }
  • 真偽値の集合: B = { ⊥, ⊤ } (⊥ = 偽, ⊤ = 真)
  • 真理値関数(論理の評価): v : P to B (各命題に真または偽を対応させる)
  • 0/1 実数への埋め込み: e : B to {0,1}e(⊥) = 0e(⊤) = 1

ここで初めて、「命題 p の 0/1 表現」として x = e(v(p)) と書くことができます。 p 自体は数ではなく、x だけが 0/1 の実数です。

2. 論理演算と実数演算をつなぐ

ブール代数側の演算(∧, ∨, ¬)と、 実数側の演算(掛け算や 1 − x)を、対応づけておきます。

  • 命題の論理積: p ∧ q
  • その真理値: v(p ∧ q)
  • 0/1 実数としての像: e(v(p ∧ q))

適切な同型をとると、 e(v(p ∧ q)) = e(v(p)) × e(v(q)) のように、 論理積が実数乗算に対応することがあります。 重要なのは、 「∧」と「×」は別物であり、 e と v を通して対応づけられていることを明示することです。 p に直接 × を掛けない、というのがポイントです。

3. 「程度」や「あいまいさ」を入れたい場合

「半分真」「0.7 くらい真」などの程度を扱いたいなら、 さらに別の写像を用意します。

  • 程度(グレード)を表す実数: [0,1]
  • 命題から程度への写像: μ : P to [0,1] (確率やメンバーシップ度など)

例えば μ(p) = 0.7, μ(q) = 0.5 として、 あいまい論理の規則に従い μ(p ∧ q) = min(μ(p), μ(q))μ(p ∧ q) = μ(p) × μ(q) などのルールを先に決めることができます。 ここでも、 命題 p, q と 0.7, 0.5 は別物であり、 μ を通じて結びついているという構造を崩さないことが大事です。

4. アンチパターンとの対比

クリステヴァ型の誤用では、

  • p, q を「命題」と呼びながら、途中で勝手に 0.3 や 0.8 のような実数として扱う
  • p &land; q と p × q を区別しないまま計算する
  • 再び p を「テクスト」や「主体」として読み直し、数か論理かが曖昧になる

これに対して上の書き換えでは、 P(命題), B(真偽), {0,1}, [0,1], v, e, μ を別々に定義し、 どの記号がどの世界に属しているかを固定しています。 こうしておけば、 「命題なのに 0 や 1 と同じように足したり掛けたりしている」 型のバグを、型レベルで防ぐことができます。

知の欺瞞 アンチパターン ラカン Sの型不一致

型をそろえた書き換え(数式バージョン)

1. まず型を決める

言語学的な対象と数学的な対象をきちんと分けて定義します。

  • 記号の集合: Σ = { 言語的な能記 }
  • 意味の集合: M = { 意味内容や命題 }
  • 能記から意味への写像(意味作用): f : Σ → M

ある能記 S ∈ Σ に対して、 その意味 ss = f(S) と書きます。 これで「S に対応する意味 s」が型付きで表現できます。

2. S が意味に作用する構造として書く

ラカンがやりたかったのは「能記 S が意味 s に作用して別の意味を生む」という構造だと解釈できます。

  • 意味空間上の作用: TS : M → M
  • ある意味 s ∈ M に対して、 s' = TS(s)

例えば「意味が変形されない状況」は TS(s) = s、 「意味が反転するモデル」を入れたいなら あらかじめ M をベクトル空間に埋め込み、 反転を TS(s) = -s のように定義します。

3. どうしても √−1(虚数 i)を使いたい場合

「ある意味が虚数 i に対応する」と言いたいなら、 直接 s = i と書かず、別の写像でつなぎます。

  • 意味から複素数への埋め込み: g : M → ℂ (ℂ は複素数全体の集合)

ある意味 s0 ∈ M に対して g(s0) = i と定めれば、 「意味 s0 を複素平面に写したとき、その像が i になる」 という関係を持たせることができます。 ここで重要なのは、 s0 自体と i は別物であり、 写像 g を通じて対応づけられているという点です。

4. まとめ

ラカンの元の書き方では、 S や s の型が曖昧なまま 1/ss2 が計算されていました。 上のように Σ(能記), M(意味), f, TS, g を明示すれば、 やりたかった「能記と意味の対応」「意味への作用」「虚数との対応」を すべて型付きの計算手続きとして書き直すことができます。

2025年11月25日火曜日

横溝正史について、チャットできたらと思いますー

 テ)横溝正史について、チャットできたらと思いますー

北村

ありがとうございます

テ)読んでる人と、まだ読んだことない人向けで

)北村さんから横溝正史が好きだと聞いて、1冊読んでみて、それから人魚を読むと、結構影響を受けたんだなと思って

テ)そのあたりをお聞かせいただけたらと思います

北村

わかりました。お願いいたします

北村

もともと、テレビシリーズから入った口ですけども、高校の時に学校の図書室に置いてあった『髑髏検校』という小説を手に取ってしまって読んだのがきっかけだったと思います。

テ)おお、検校ってのは、あの琴をひくひとの称号ですよね?

検校の意味は、お恥ずかしいことに意味を知らなかったのですが、このお話は江戸時代に起こった吸血鬼の騒動というお話でした。その正体は九州のあの人という設定

北村

実は元祖『魔界転生』のお話でして。

テ)盲目の人が琴を生業とするんですが、その称号が検校ですね。そういう人が出てくる話ですか?

今となっては人物設定までは覚えていないのですが、この『検校』として立ち回っている人物が実はキリスト教のつながりの吸血鬼というお話です。

テ)へー、なんかモダンかつ日本風で、おもしろそうな設定ですね!

北村さんにとっての横溝正史の魅力みたいな所をお聞かせください!

北村

まず、戦前から戦後までを駆け抜けた作家さん、ということもあり古びれた家の陰を描いていたかと思えば、都会の団地の影を描いていたりする(『白と黒』)

北村

あとは独特の言葉遣いといったところでしょうか。男女の縮められない距離感(といっても男の側が、なんですが)もちょっと共感できたりします。

北村

でも、やっぱり横溝正史の原型みたいなところは短編に描かれている幻想性のようなところにあると思います。『かいやぐら物語

テ)言葉遣いのあたりは北村さんの「人魚」でも楽しんでもらえそうですね。横溝正史の近い世代で、似たアプローチの作家としては江戸川乱歩がいると思いますが、北村さんは江戸川乱歩も好きだったりしますか?

昔は読み始めていました乱歩 これから読んでみたいと思っています。

北村

どっちかというと推理小説ではない短編とかあったら入手して読んでみたいですね。

テ)なるほど、横溝正史は我々世代だと角川映画とか、金田一シリーズがやはり有名ですね。金田一シリーズでオススメや影響を受けた作品はありますでしょうか?

金田一シリーズを読むとしたらなんといっても『夜歩く』です。金田一耕助が出てくるのは最後の4分の1なのですが

北村

悪魔の手毬歌』もプロット的には似たようなところがありますが。スケールが大きいですね。

テ)

なんか、狂言回し的に主人公が出てくる系ですかね。ルパン三世の最終回とかも、最後まで出てこないみたいな展開でしたね。

北村

あれは衝撃的でしたけれど、登場の意味合いは近いような気がしますルパンの最終回

テ)最後に、初めて読む人用に横溝正史ブックガイドいれたいので、他にも横溝正史でオススメがあれば、タイトルだけでいいので、ぜひ教えてください!!

期の横溝の世界の『恐ろしきエイプリルフール』『空蝉処女』金田一耕助の敗北ともとれる後味の悪い『仮面舞踏会』あなたの知っている横溝正史でない横溝の世界をどうぞ!

北村

もちろん『悪魔が来りて笛を吹く』『悪魔の手毬唄』『犬神家の一族』『本陣殺人事件』と、いっぱいありすぎておススメにリンダこまっちゃう

テ)お茶目にありがとうございます!いただいた本をしらべてみますね!!本日はありがとうございました!当日をフリーペーパーにして配りマース

はい!ありがとうございました!

 

北村さんおすすめの横溝正史ブックガイドはこちら!

 

https://note.com/rodz/n/n9bb629b35137

 

2025年11月12日水曜日

オートマトンの歴史

 

時期 系統・代表例 概要(約200字)
1940–60年代 ノイマン型自己複製オートマトン ジョン・フォン・ノイマンとウラムが提案。生命の自己増殖を形式的に再現する試みで、後の人工生命研究の源流。複雑なルールで自己複製構造を生成し、情報と形の自己維持を数理的に示した。後にコッドが簡略モデルを開発。
1960年代 L-system(リンダンメイヤー) 植物の成長過程を記号列として再帰的に記述する文法モデル。枝分かれや葉の配置などを規則で生成でき、フラクタル幾何やCG植物モデルの基礎となる。ライフゲーム以前に形態生成オートマトンとして影響大。
1970年代 コンウェイのライフゲーム グリッド上のセルが誕生・生存・死の簡単なルールで進化。自己組織的に複雑なパターンが生まれ、計算能力も持つ。メディアで広まり、一般に「オートマトン=ライフ」という認識を定着させた。
1980年代 ウォルフラムの一次元CA/ラングトンのループ ウォルフラムはRule 30やRule 110で秩序と混沌の境界を分類。ラングトンは自己複製ループを開発し、単純ルールから生命的構造が生まれることを実証。可逆CAや格子ガスも物理モデリングに発展。
1990年代 発火型・可逆・物理系CA Brian’s Brain、Cyclic CA、Greenberg–Hastingsなど発火と拡散のリズムを再現。トッフォリ=マルゴラスの可逆CAや格子ボルツマン法は流体・熱伝導を近似し、物理シミュレーションや材料科学に応用。
2010年代以降 SmoothLife/Lenia/Neural CA SmoothLifeやLeniaは連続空間で擬生命パターンを生成。Neural CAはニューラルネットでルールを学び、形態形成や自己修復を実現。近年は学習とオートマトンの融合で「進化するルール系」へ展開。

The History of Automata

 

Era System / Example Summary (≈200 characters each)
1940s–1960s Von Neumann Self-Replicating Automaton Proposed by John von Neumann and Ulam, it modeled self-reproduction in formal logic. This became the foundation of artificial life, showing how information and structure can replicate through rule-based construction. Later simplified by Codd.
1960s L-system (Lindenmayer System) A grammatical model expressing plant growth as recursive symbol rewriting. It generates branching and leaf structures via simple rules, forming the basis of fractal geometry and procedural modeling—an early form of morphological automaton.
1970s Conway’s Game of Life A grid-based system where simple birth/survival/death rules yield complex emergent patterns. Demonstrated how simple local rules create global order and even universal computation. It popularized “cellular automata” worldwide.
1980s Wolfram’s 1D CA / Langton’s Loop Wolfram classified CA behaviors (Rules 30 & 110) and explored order-chaos boundaries. Langton’s self-replicating loop showed lifelike growth from minimal rules. Reversible CA and lattice-gas models extended automata to physical simulation.
1990s Excitable, Reversible & Physical CA Systems like Brian’s Brain, Cyclic CA, and Greenberg–Hastings reproduced excitation and wave propagation. Toffoli–Margolus reversible CA and lattice-Boltzmann methods modeled fluids and heat, influencing physics and materials science.
2010s–present SmoothLife / Lenia / Neural CA SmoothLife and Lenia introduced continuous-space life-like forms. Neural CA learned their own rules via neural networks, enabling self-repair and morphogenesis. These merge learning and automata, creating evolving rule-based systems.

2025年11月9日日曜日

テリー・ライリー《In C》の演奏指針要約

 テリー・ライリー《In C》の演奏指針要約。全員が同一譜面の53のパターンを順番に演奏し、編成や楽器数は自由(理想は約35名)。声部は任意の母音・子音で参加可。各奏者は各パターンを好きな回数だけ反復して次へ進む。公演は45〜90分程度が目安で、1パターンの滞在はおおむね45〜90秒以上。互いをよく聴き、ときに休んで聴くこと。強弱の幅を大きく取り、合奏でクレシェンド/ディミヌエンドを合わせる。ユニゾンやカノン的重なりを任意に行い、ポリリズムの相互作用を楽しむが、常に2〜3パターン以内で歩調を保ち、先走りや遅れを避ける。高音Cの8分音符パルス(ピアノやマレット、慎重な打楽器)で合図可。全員が厳密なリズムで正確に弾くこと。テンポは任意だが無理のない範囲で。休止中も周期的アクセントを意識し、再入時の効果を配慮する。必要に応じて1オクターブ移調(特に上方)、長音には下方移調も有効。リズムの拡大も可。弾けないパターンは省略可。増幅や電子鍵盤の使用も可。終結は全員が第53番に到達してから大きなクレッシェンドとディミヌエンドを数回行い、各自の判断で順次抜けて終わる。


https://thirdcoastpercussion.com/downloads/2015/04/Terry-Riley-In-C-concert2.pdf