2025年12月10日水曜日

世界的アドフラウド組織犯罪の事例と対策

 


概要:近年、広告主の巨額の広告費を狙った不正行為(アドフラウド)は国家や組織をまたぐ複雑な犯罪ネットワークによって行われており、その摘発には国内外の法執行機関やプラットフォーム企業、業界団体が協力して取り組んでいます。本報告では、実例と手口、各国の摘発・検挙事例、広告プラットフォームや業界団体の対策、国際協力、最新トレンドの各視点から整理します。

組織的広告詐欺の事例と手口

  • Methbot/3ve(ロシア系サイバー犯罪組織):米国司法省は2018年に、ロシア人らが関与する二つの大規模広告詐欺組織(「Methbot」と「3ve」)を摘発した。Methbotでは米テキサス州ダラス等の商用データセンターに約1,900台のサーバーを設置し、5,000超のドメインを「偽装」して広告枠を載せ、広告を自動化ボットで読み込ませて閲覧を偽造したjustice.govjustice.gov。一方、3veでは世界中で感染させた1.7万台以上のPCからなるボットネットを操り(Kovterマルウェア等を使用)隠れたブラウザで偽造ページに広告を表示し、数十億回の不正表示を行ったjustice.govjustice.gov。いずれも広告主に見えない虚偽のインプレッション・クリックを発生させ、多額の収益を不正に得ていた。

  • DNS乗っ取り型広告詐欺(エストニア・ロシア犯罪グループ):2011年、米ニューヨーク南部連邦地検(FBIとNASA捜査官ら)は、エストニア企業「Rove Digital」らが展開する大規模なDNSチェンジャー型詐欺を摘発した。約100カ国で400万台超のPCにマルウェアを感染させ、広告クリックや検索結果を不正サイトに転送して広告料約1,400万ドルを稼いでいたarchives.fbi.govarchives.fbi.gov。被告はエストニア国籍6名とロシア人1名で、クリックハイジャックや広告入れ替え(正規広告を不正広告に置換)を組織的に実行していた。

  • Hydraボットネット(Protected Media 等の対策):2020年、セキュリティ企業Protected Mediaは「Hydra」と呼ばれる世界規模の広告詐欺ボットネットを公表した。このスキームでは、広告配信ネットワークを介して偽装アプリトラフィックを生成し、広告主から1.3億ドル以上を不正徴収していた。業界は「Slay Hydra」作戦としてGoogleやTAG(Trustworthy Accountability Group)などと連携し、システムを停止させたprotected.media。Google側も同協力を評価し、不正防止の重要性を強調しているprotected.media

  • モバイルアプリ経由の詐欺(Cheetah Mobile 等):中国のアプリ開発会社Cheetah Mobileは、アプリ内で不正にインストール報酬を請求する「クリック注入」手法で批判を浴びた。Googleは2018年に同社の不正行為を問題視し、2020年には同社の45個のアプリをPlayストアから削除しているfraudblocker.com。また、類似の手口で広告を乗っ取る悪質アプリ群(例:Vastflux、Matryoshkaなど)も近年問題となっている。

  • 詐欺系アフィリエイト広告:暗号通貨投資詐欺やオンライン詐欺の文脈で、偽投資サイトへの誘導広告が蔓延している。2025年末、EU機関とイスラエルが共同で実施した捜査では、詐欺的な仮想通貨投資プラットフォームを宣伝するSNS広告を発注する企業・業者が摘発された。関係者によるとこのネットワークは数億ユーロ規模の詐欺収益を送金しており、詐欺組織は広告宣伝やマネーロンダリングに「部門制」を敷いて運営されていたoccrp.orgoccrp.org

掲載・摘発事例(警察・捜査機関の対応)

  • 米国司法省・FBIの摘発:前述のMethbot/3ve事件では、捜査当局は米国国外で複数の容疑者を逮捕・訴追し、インターネットドメインの差し押さえやネットワークの「シンクホール化(sinkholing)」によってボットネット基盤を破壊したjustice.govjustice.gov。アレクサンドル・ジューコフ(Methbot主犯)は後に米連邦裁判所で10年の懲役刑に処せられ、「広告詐欺の王」と呼ばれた手口の全容が公開されたjustice.govjustice.gov。FBIとニューヨーク市警(NYPD)、司法省はマレーシア、ブルガリア、エストニアなど複数国の捜査機関と連携して容疑者を拘束し、関連サーバーと銀行口座も差し押さえたjustice.govjustice.gov

  • 国際捜査機関の連携:米国以外でも、EUROPOL(欧州刑事警察機構)やインターポールが広告詐欺・関連詐欺の国際捜査に関与している。例えば、2025年の欧州当局による作戦では、ベルギー・ブルガリア・ドイツ・イスラエルの警察が合同でクリプト詐欺広告のキャンペーン関係者を摘発した。これらの詐欺組織はEU報告で7億ユーロ(約950億円)以上を資金洗浄しており、「アフィリエイト・マーケティング」が投資詐欺の根幹をなすとされたoccrp.orgoccrp.org。同様に、多国籍捜査によりアフリカ各地や東南アジアでも詐欺行為に関連する企業や犯罪者への一斉摘発が行われている。

  • 私的協力も含めた多角的アプローチ:捜査には民間企業や業界団体も協力している。先のジューコフ事件では、ホワイトオプス(現Human Security)やGoogle、Microsoft、ESET、Trend Microなど多数のセキュリティベンダーが技術支援し、ボット検出やドメイン特定に貢献したjustice.gov。業界横断のフォーラムであるTAG(Trustworthy Accountability Group)やIAB(Interactive Advertising Bureau)は捜査や啓発で捜査当局と協力し、不正業者の排除と健全な広告取引の促進を目指しているiab.comiab.com

プラットフォーム・業界団体の対策

  • Google・Meta(Facebook)など広告プラットフォームの防御策:主要プラットフォーム各社は不正トラフィック検出にAIや機械学習を導入している。Googleの広告品質チームは「ライブレビュアー、フィルタ、自動学習」等を駆使し、ボットや無効なクリック・インプレッションを排除する体制を整えているgoogle.com。Metaも広告主からの報告や独自のシグナルで不審なクリックを監視し、人的な確認による対策を行っている(参考:Metaヘルプページ)。また、YouTubeや広告ネットワークは、視聴保証の設定や異常検知アラートなどで不審再生を検出・遮断する仕組みを強化している。

  • 業界団体による認証・ガイドライン:IABやTAGは、業界ベースでサプライチェーンの健全化に取り組んでいる。2017年、米IABは会員企業に対しTAGへの登録を義務付け、TAGの不正撲滅活動へ参画することを決定したiab.com。TAGは2016年から「Certified Against Fraud(CAF)」プログラムを運用し、認定チャネルではボット等による無効トラフィック率(IVT)を1%未満に抑制していると報告しているtagtoday.nettagtoday.net。また、業界標準としてAds.txtやAds.certなどの認証・検証プロトコルが開発され、広告取引の透明性向上に寄与している(IAB Tech Lab参照)。広告主や代理店は不正対策ツールの導入を進め、第三者機関(MRCなど)の品質認証も利用している。

  • 啓発・情報共有:広告業界では、詐欺手口や検出技術に関する情報を共有する動きも活発化している。各社のセキュリティチームやアナリストが不正トラフィックの兆候を分析し、業界カンファレンスや専門レポートで事例や対策を発表している。これにより、同種の詐欺が他社に伝播しやすいリスクにも対応し、先手を打った対応が可能になっている。

国際協力と公民連携

  • 多国間捜査と国際機関:インターポールやユーロポールといった国際捜査組織も、サイバー詐欺事件において中核的な役割を果たしている。共通のプラットフォームで各国警察が情報を交換し、犯罪人引渡しや資金凍結を行う体制が構築されている。例えば、INTERPOLはサイバー金融犯罪に対する国際作戦「ハエチ作戦」等で世界40カ国以上の警察と連携し、詐欺犯罪の資金や不正アカウントを押収・凍結しているinterpol.intinterpol.int(アドフラウドに限らないが同様の多国協力の枠組みが適用可能)。欧米やアジアの法執行機関は相互の法的援助協定(MLAT)を活用し、容疑者の逮捕・移送や証拠収集を効率化している。

  • 公私パートナーシップ:不正検出には政府機関だけでなく民間企業の協力も不可欠である。捜査機関はプライベート企業から技術支援や分析データの提供を受けるほか、FBIや欧州各国警察は企業のCSIRTやフォレンジック企業と共同演習を行い、攻撃の兆候に対する即応態勢を整えている。加えて、投資家や広告主団体も業界指針への対応を促すことで「需給面からの圧力」をかけている。結果として、国境や業界を越えた連携によって、サイバー犯罪者が専門家グループにより迅速に特定・阻止される事例が増えている。

最新トレンド:AI活用・詐欺手口の高度化

  • AI・機械学習検出技術の進化:最新の広告詐欺検出ではAIや機械学習の活用が不可欠となっている。Googleなどでは、リアルタイムで膨大な広告トラフィックを解析し、不自然な挙動(非人間的なクリックパターンや疑わしいIPルーティングなど)を自動検知するシステムが導入されているgoogle.com。さらに、業界では異常検知アルゴリズムやビッグデータ分析によって、詐欺ボットの挙動を素早く炙り出す取り組みが進んでいる。

  • AI搭載ボット・ディープフェイク広告:一方で攻撃側もAIを悪用し、より巧妙な詐欺手法を開発している。AI搭載ボットはクリック間隔やマウス動作を人間になりすまし、従来のフィルタを回避する。専門家は「AIを用いた不正クリックが2025年に倍増すると予測される」fraud0.comと警鐘を鳴らす。さらに、広告クリエイティブ自体にもディープフェイクやAI生成技術が活用されており、有名人や報道機関に偽装した広告が拡散される事例が報告されている(Meta上の深層学習広告など)spideraf.comfraud0.com。これらを検出するには、画像・音声の認証技術やクリエイティブの自動検証ツールが求められている。

  • プラットフォーム拡大による脆弱性:広告を配信するデバイスやメディアも多様化しており、不正者はモバイルアプリやCTV(コネクテッドTV)を悪用し始めている。モバイル広告ではアプリ起動やインストールを不正誘導する詐欺が増加し、CTVでは広告再生を自動化するボット群が検出されているfraud0.com。アナリストは、広告主がこれら新しいチャネルに配信する際にはさらに厳密なトラフィック検証が必要と指摘している。

  • 規制・業界標準の強化:欧州では「デジタルサービス法(DSA)」など新法の施行により、透明性や説明責任が義務化されつつある。広告プラットフォームは悪質な広告主や配信先を速やかに特定・排除することが求められており、業界団体も品質指標の定義強化や監査制度の整備を進めているspideraf.com。また、広告配信経路の可視化(例:サプライチェーンオブジェクトの実装)や認証技術の標準化(Ads.cert、ads.txt 2.0など)といった技術的対策も進展しており、プラットフォーム・広告主・受託業者の三者が連携して詐欺防止に取り組む流れが強まっている。

  • 高度化する詐欺手口への対抗策:広告主側も不正対策ツールやベストプラクティスの導入を加速している。高額予算を投下する広告キャンペーンでは、リアルタイム不正検知システムやポストクリック分析(例:経路アナリティクス)を必須とするケースが増えた。プラットフォームやベンダー各社も、詐欺インシデント情報の共有ネットワーク(Threat Exchange等)を活用し、脅威インテリジェンスを迅速に反映させている。結果として、全体としては検出技術と対策が高度化しつつあるが、攻撃者も常に巧妙化しているため、継続的な技術革新と協力体制の維持が求められているfraud0.comspideraf.com

参考資料:本報告の情報は、米司法省およびFBIの公式発表justice.govjustice.govarchives.fbi.gov、セキュリティ企業の報告protected.mediafraud0.com、業界団体や大手メディアの記事occrp.orggoogle.comiab.comtagtoday.netなどに基づいています。

2025年12月7日日曜日

情報にとって美とは何か? ヨシモトーン

📘 『情報にとって美とは何か? Yトーン』 発売中!

Kindle版とオンデマンド版で好評発売中です。 情報、メディア、文化、そして価値――この一冊は、 現代を生きる私たちが当たり前と思っている「情報」という現象を、 哲学・歴史・理論・批評の交差点から鋭く問い直します。

📍 本書の読みどころ

  • 情報の本質に迫る ― 情報とは何か、どこから来てどこへ向かうのかを再定義。
  • 「美」の再構築 ― 感情やオーラではなく、伝達・希少性・意味生成としての美を提示。
  • 理論と歴史の横断 ― シャノン理論、テレビの誕生、批評史を織り交ぜた知的冒険。
  • 現代への応用 ― AIやネット時代の情報価値を読み解くヒントが満載。

多くの情報論や美学は、意味や情緒を前提としがちです。 しかし本書はそれらを一旦脇に置き、情報そのものが持つ構造と伝達可能性に立脚して「美」を問います。 シャノンのモデルに代表される通信理論が、どのようにして情報の価値や美学と結びつくのか―― その思考の道筋は、新鮮でありながら洞察に満ちています。

情報論・メディア論・哲学・現代文化論の読者におすすめ。 日々膨大な情報に触れるあなたに、新しい視座をもたらす一冊です。

2025年11月26日水曜日

知の欺瞞 アンチパターン イリガライ 式の両辺の単位や次元を確かめないまま、別の量として読み替えて解釈してしまう

アンチパターン3
式の両辺の単位・次元を見ないで、勝手に置き換えて解釈してしまう

(イリガライの E = mc² をめぐる読み替えから抽出)

1. まず物理式としての前提をはっきりさせる

有名な式 E = mc2 は、次の量の関係を表します。

  • E:エネルギー(単位 J:ジュール)
  • m:質量(単位 kg)
  • c:光の速度(単位 m/s)

左右の単位を確認すると、 kg × (m/s)2 = kg·m2/s2 = J となり、両辺の次元はそろっています。 ここで重要なのは、 E, m, c は実測に裏づけられた物理量であり、 単位と次元が一致するように選ばれているという点です。

2. c を「別の速度」に入れ替える前に確認すべきこと

もし c の代わりに別の速度 v を入れて E' = mv2 のような形を考えるなら、 次の点を確認する必要があります。

  • その式はどの理論から導かれているか(相対論か、古典力学か)
  • どの状況で近似的にでも成り立つのか(低速極限か、高速か)
  • 実際の観測値と整合するか(桁違いの値になっていないか)

単に「速度だから入れ替えられる」と考えてしまうと、 式が本来説明している現象(静止エネルギー)と、 別の現象(古典的運動エネルギー)を混同することになります。

3. メタファーや価値づけは物理式とは別レイヤーに置く

「光速 c が特権化されている」「流体の速度は軽視されてきた」といった議論は、 物理式そのものではなく、 研究テーマの選択・歴史的評価・制度の問題として扱う方が整合的です。

つまり、

  • 物理式のレイヤー:E = mc2 がどの現象をどの精度で説明するか
  • メタ・社会的レイヤー:どの分野がどのように評価されてきたか

を分けて記述し、 「式そのもの」には価値ラベルを貼らず、 「誰が何を研究してきたか」の側でジェンダーや権力を分析する方が、 型の一貫性を保てます。

4. アンチパターンとの対比

アンチパターンでは、

  • 両辺の単位・次元を確認しないまま、c を別の速度に入れ替える
  • 式が導かれた理論や前提条件に触れず、「特権化」「象徴性」を読み込む
  • 物理的説明と社会的・象徴的説明のレイヤーが混在する

その結果、 計算が指しているものと、テキストが語っているものがずれたまま接続される という状態になります。

5. 型をそろえた修正例

同じテーマを扱うとして、次のようにレイヤーを分けて書き換えることができます。

5-1. 物理レベルの記述

まず、純粋に物理としての式と計算を明示します。

  • 質量 m = 1 [kg]
  • 光速 c ≈ 3.0 × 108 [m/s]

このとき静止エネルギーは E = mc2 ≈ 9.0 × 1016 [J] となります。 ここまでは、価値判断やメタファーを入れず、 「何をどの単位で計算しているか」だけを書く段階です。

5-2. 解釈レベルを写像として書く

次に、「このエネルギーをどう意味づけるか」を、 別の写像として表します。

  • 物理量の集合: Q = { E, m, c, … }
  • ディスクール上の意味の集合: D = { 集中した潜在性, 拡散性, 静性, 動性, … }
  • 解釈写像: h : Q → D

例えば、 h(E) = 集中した潜在性h(c) = 普遍的な上限速度 のように定めれば、 「E をこう読む」「c をこう読む」という解釈は E = mc2 とは別のレイヤーで記述できます。 ここで重要なのは、 E 自体と「集中した潜在性」は等号で結ばないことです。 あくまで h を通じて対応づけるだけにとどめます。

5-3. ジェンダーや権力の分析を置く場所

「なぜ c が物理学で中心的な役割をもっているのか」を問いたいなら、 それは

  • 理論的理由(ローレンツ対称性、不変速度であること)
  • 歴史的理由(どの実験が c の重要性を示してきたか)
  • 制度的理由(どの分野に資金や名声が集まってきたか)

といった複数のレイヤーに分解できます。 そのうえで、 「制度的理由」の部分にジェンダーや権力の分析を置くようにすると、 物理式そのものの型を壊さずに、社会批判の議論を展開できます。

この修正例では、 計算(E = mc2)と解釈(h, 社会分析)のレイヤーを分離し、 それぞれに固有の型と手続きを与えることで、 「式の両辺の単位・次元を見ないで、勝手に置き換えて解釈してしまう」 というアンチパターンを避けています。

知の欺瞞 アンチパターン 集合や命題と 0/1 の混同

型をそろえた書き換え(パターン2:集合や命題と 0/1 の混同)

1. まず型をはっきり分ける

「命題そのもの」「真偽の値」「0/1 実数」「あいまいな程度」を混ぜないように、 それぞれ別の集合として定義します。

  • 命題の集合: P = { p, q, r, ... }
  • 真偽値の集合: B = { ⊥, ⊤ } (⊥ = 偽, ⊤ = 真)
  • 真理値関数(論理の評価): v : P to B (各命題に真または偽を対応させる)
  • 0/1 実数への埋め込み: e : B to {0,1}e(⊥) = 0e(⊤) = 1

ここで初めて、「命題 p の 0/1 表現」として x = e(v(p)) と書くことができます。 p 自体は数ではなく、x だけが 0/1 の実数です。

2. 論理演算と実数演算をつなぐ

ブール代数側の演算(∧, ∨, ¬)と、 実数側の演算(掛け算や 1 − x)を、対応づけておきます。

  • 命題の論理積: p ∧ q
  • その真理値: v(p ∧ q)
  • 0/1 実数としての像: e(v(p ∧ q))

適切な同型をとると、 e(v(p ∧ q)) = e(v(p)) × e(v(q)) のように、 論理積が実数乗算に対応することがあります。 重要なのは、 「∧」と「×」は別物であり、 e と v を通して対応づけられていることを明示することです。 p に直接 × を掛けない、というのがポイントです。

3. 「程度」や「あいまいさ」を入れたい場合

「半分真」「0.7 くらい真」などの程度を扱いたいなら、 さらに別の写像を用意します。

  • 程度(グレード)を表す実数: [0,1]
  • 命題から程度への写像: μ : P to [0,1] (確率やメンバーシップ度など)

例えば μ(p) = 0.7, μ(q) = 0.5 として、 あいまい論理の規則に従い μ(p ∧ q) = min(μ(p), μ(q))μ(p ∧ q) = μ(p) × μ(q) などのルールを先に決めることができます。 ここでも、 命題 p, q と 0.7, 0.5 は別物であり、 μ を通じて結びついているという構造を崩さないことが大事です。

4. アンチパターンとの対比

クリステヴァ型の誤用では、

  • p, q を「命題」と呼びながら、途中で勝手に 0.3 や 0.8 のような実数として扱う
  • p &land; q と p × q を区別しないまま計算する
  • 再び p を「テクスト」や「主体」として読み直し、数か論理かが曖昧になる

これに対して上の書き換えでは、 P(命題), B(真偽), {0,1}, [0,1], v, e, μ を別々に定義し、 どの記号がどの世界に属しているかを固定しています。 こうしておけば、 「命題なのに 0 や 1 と同じように足したり掛けたりしている」 型のバグを、型レベルで防ぐことができます。

知の欺瞞 アンチパターン ラカン Sの型不一致

型をそろえた書き換え(数式バージョン)

1. まず型を決める

言語学的な対象と数学的な対象をきちんと分けて定義します。

  • 記号の集合: Σ = { 言語的な能記 }
  • 意味の集合: M = { 意味内容や命題 }
  • 能記から意味への写像(意味作用): f : Σ → M

ある能記 S ∈ Σ に対して、 その意味 ss = f(S) と書きます。 これで「S に対応する意味 s」が型付きで表現できます。

2. S が意味に作用する構造として書く

ラカンがやりたかったのは「能記 S が意味 s に作用して別の意味を生む」という構造だと解釈できます。

  • 意味空間上の作用: TS : M → M
  • ある意味 s ∈ M に対して、 s' = TS(s)

例えば「意味が変形されない状況」は TS(s) = s、 「意味が反転するモデル」を入れたいなら あらかじめ M をベクトル空間に埋め込み、 反転を TS(s) = -s のように定義します。

3. どうしても √−1(虚数 i)を使いたい場合

「ある意味が虚数 i に対応する」と言いたいなら、 直接 s = i と書かず、別の写像でつなぎます。

  • 意味から複素数への埋め込み: g : M → ℂ (ℂ は複素数全体の集合)

ある意味 s0 ∈ M に対して g(s0) = i と定めれば、 「意味 s0 を複素平面に写したとき、その像が i になる」 という関係を持たせることができます。 ここで重要なのは、 s0 自体と i は別物であり、 写像 g を通じて対応づけられているという点です。

4. まとめ

ラカンの元の書き方では、 S や s の型が曖昧なまま 1/ss2 が計算されていました。 上のように Σ(能記), M(意味), f, TS, g を明示すれば、 やりたかった「能記と意味の対応」「意味への作用」「虚数との対応」を すべて型付きの計算手続きとして書き直すことができます。

2025年11月25日火曜日

横溝正史について、チャットできたらと思いますー

 テ)横溝正史について、チャットできたらと思いますー

北村

ありがとうございます

テ)読んでる人と、まだ読んだことない人向けで

)北村さんから横溝正史が好きだと聞いて、1冊読んでみて、それから人魚を読むと、結構影響を受けたんだなと思って

テ)そのあたりをお聞かせいただけたらと思います

北村

わかりました。お願いいたします

北村

もともと、テレビシリーズから入った口ですけども、高校の時に学校の図書室に置いてあった『髑髏検校』という小説を手に取ってしまって読んだのがきっかけだったと思います。

テ)おお、検校ってのは、あの琴をひくひとの称号ですよね?

検校の意味は、お恥ずかしいことに意味を知らなかったのですが、このお話は江戸時代に起こった吸血鬼の騒動というお話でした。その正体は九州のあの人という設定

北村

実は元祖『魔界転生』のお話でして。

テ)盲目の人が琴を生業とするんですが、その称号が検校ですね。そういう人が出てくる話ですか?

今となっては人物設定までは覚えていないのですが、この『検校』として立ち回っている人物が実はキリスト教のつながりの吸血鬼というお話です。

テ)へー、なんかモダンかつ日本風で、おもしろそうな設定ですね!

北村さんにとっての横溝正史の魅力みたいな所をお聞かせください!

北村

まず、戦前から戦後までを駆け抜けた作家さん、ということもあり古びれた家の陰を描いていたかと思えば、都会の団地の影を描いていたりする(『白と黒』)

北村

あとは独特の言葉遣いといったところでしょうか。男女の縮められない距離感(といっても男の側が、なんですが)もちょっと共感できたりします。

北村

でも、やっぱり横溝正史の原型みたいなところは短編に描かれている幻想性のようなところにあると思います。『かいやぐら物語

テ)言葉遣いのあたりは北村さんの「人魚」でも楽しんでもらえそうですね。横溝正史の近い世代で、似たアプローチの作家としては江戸川乱歩がいると思いますが、北村さんは江戸川乱歩も好きだったりしますか?

昔は読み始めていました乱歩 これから読んでみたいと思っています。

北村

どっちかというと推理小説ではない短編とかあったら入手して読んでみたいですね。

テ)なるほど、横溝正史は我々世代だと角川映画とか、金田一シリーズがやはり有名ですね。金田一シリーズでオススメや影響を受けた作品はありますでしょうか?

金田一シリーズを読むとしたらなんといっても『夜歩く』です。金田一耕助が出てくるのは最後の4分の1なのですが

北村

悪魔の手毬歌』もプロット的には似たようなところがありますが。スケールが大きいですね。

テ)

なんか、狂言回し的に主人公が出てくる系ですかね。ルパン三世の最終回とかも、最後まで出てこないみたいな展開でしたね。

北村

あれは衝撃的でしたけれど、登場の意味合いは近いような気がしますルパンの最終回

テ)最後に、初めて読む人用に横溝正史ブックガイドいれたいので、他にも横溝正史でオススメがあれば、タイトルだけでいいので、ぜひ教えてください!!

期の横溝の世界の『恐ろしきエイプリルフール』『空蝉処女』金田一耕助の敗北ともとれる後味の悪い『仮面舞踏会』あなたの知っている横溝正史でない横溝の世界をどうぞ!

北村

もちろん『悪魔が来りて笛を吹く』『悪魔の手毬唄』『犬神家の一族』『本陣殺人事件』と、いっぱいありすぎておススメにリンダこまっちゃう

テ)お茶目にありがとうございます!いただいた本をしらべてみますね!!本日はありがとうございました!当日をフリーペーパーにして配りマース

はい!ありがとうございました!

 

北村さんおすすめの横溝正史ブックガイドはこちら!

 

https://note.com/rodz/n/n9bb629b35137

 

2025年11月12日水曜日

オートマトンの歴史

 

時期 系統・代表例 概要(約200字)
1940–60年代 ノイマン型自己複製オートマトン ジョン・フォン・ノイマンとウラムが提案。生命の自己増殖を形式的に再現する試みで、後の人工生命研究の源流。複雑なルールで自己複製構造を生成し、情報と形の自己維持を数理的に示した。後にコッドが簡略モデルを開発。
1960年代 L-system(リンダンメイヤー) 植物の成長過程を記号列として再帰的に記述する文法モデル。枝分かれや葉の配置などを規則で生成でき、フラクタル幾何やCG植物モデルの基礎となる。ライフゲーム以前に形態生成オートマトンとして影響大。
1970年代 コンウェイのライフゲーム グリッド上のセルが誕生・生存・死の簡単なルールで進化。自己組織的に複雑なパターンが生まれ、計算能力も持つ。メディアで広まり、一般に「オートマトン=ライフ」という認識を定着させた。
1980年代 ウォルフラムの一次元CA/ラングトンのループ ウォルフラムはRule 30やRule 110で秩序と混沌の境界を分類。ラングトンは自己複製ループを開発し、単純ルールから生命的構造が生まれることを実証。可逆CAや格子ガスも物理モデリングに発展。
1990年代 発火型・可逆・物理系CA Brian’s Brain、Cyclic CA、Greenberg–Hastingsなど発火と拡散のリズムを再現。トッフォリ=マルゴラスの可逆CAや格子ボルツマン法は流体・熱伝導を近似し、物理シミュレーションや材料科学に応用。
2010年代以降 SmoothLife/Lenia/Neural CA SmoothLifeやLeniaは連続空間で擬生命パターンを生成。Neural CAはニューラルネットでルールを学び、形態形成や自己修復を実現。近年は学習とオートマトンの融合で「進化するルール系」へ展開。